【書評】開業医のためのエンゲージメント経営 岸本久美子

【書評】開業医のためのエンゲージメント経営 岸本久美子 マネジメント
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著者情報

岸本久美子

医療法人社団ハピコワ会理事長、ハピコワクリニック五反田院長です。

ハピコワとはハッピー・コワーキングというの略ということで著者の大事とするところがよく表れていると思います。

ハピコワクリニック五反田 | 五反田、大崎の呼吸器内科・アレルギー科・内科・小児科
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東邦大学医療センター大橋病院呼吸器内科、東芝病院(現・東京品川病院)内科などを経て、35歳でハピコワクリニック五反田を開業されています。

また、ハピコワクリニック開業直後に新型コロナをきっかけに、経営(とくに人材育成やマネジメントなど)の勉強をしようとビジネススクールに通いMBAを取得されています。

レビュー概要

著者は出産後に、35才で自分で仕事をマネジメントしながら子育てをする方法を「開業」という形で実現されています。35才での開業というと現在の医師の開業事情からすると若い部類に入りますし、さらに出産・育児を行いながらの開業準備~開業~開業まで行っています。

そのため、専門性の選択から、呼吸器内科のキャリア、そして開業と、医師のキャリアや女性のキャリアとして参考になる点が多くあると感じられました。

だがやはり、本書の目玉は、経営に関する特に「人」目線の内容でしょう。

この「人」というのは、スタッフだけではなく患者さんも含めたものです。

本書には「エンゲージメント経営」というタイトルがついているため、スタッフマネジメントを中心とした内容のように思えるのですが、もっと広い意味で、本書では「人」目線で患者さん目線、集患目線までも含めた内容が入っています。

患者さんから信頼を得るためのコミュニケーション

医師に嫌われると自分が不利益を被るかもしれないと考えている

医療はサービス業であるという認識を持つこと。そして、患者さんの立場を考えることは重要です。

本書でも下記のような記載がありますが、意外とこれに気づけている医師は少なく感じられるのが本ブログ著者の印象です。

「患者さんは、医師に嫌われると自分が不利益を被るかもしれないと考えているため、不満があっても口に出しません。」

医師からすると「それならそのときに言ってくれたらいいのに」と思うことが多くあると思うのですが、患者さんは言えないのです。

そのため、横柄な態度は論外ですし、医学的に正しいことを押し付けるのが常に正しいというわけでは無く、患者さんの悩みに寄り添うのが重要と述べられています。

患者さんの人生に寄り添うかかりつけ医

患者さんの主訴を見て終わりではなく、将来起こりうることを少し予想して患者さんに伝えてあげると患者さんの満足度が向上します。

また、中には薬を飲み忘れたり、薬の効果があまりなかったりすると、患者さんは医師にそれを伝えにくいのか、通院をやめたり別のクリニックに行ってしまうことがあります。

そのため、著者のクリニックでは「おかえり」と迎えられる雰囲気作りを大切にしています。

「治療を続けないとダメですよ」と言うのは簡単ですが、患者さんは怒られたような気分になるため、薬を飲み忘れたのならどうすれば継続できるようになるのかを一緒に考え、薬が効かなかったのなら別の薬を提案して、患者さんとの信頼関係を作っていきます。

ミッション・ビジョン・バリューを軸としたエンゲージメント経営

著者は4大経営資源「ヒト・モノ・カネ・ジョウホウ」のうち、クリニックでは「ヒト」を特に重視しています。これは医療自体が人によるビジネス(医療経営にかかる費用のほとんどは人件費)ですから、ある意味当然のことと言えるでしょう。

人的資源管理を適正に行うことでサービス品質の向上と患者満足度の向上、そして集患につながります。

クリニックが目指す価値観を繰り返しスタッフに伝え共感してもらう

著者はビジネススクールにおける360度評価で「あなたは自分にも他人にも厳しすぎる」と言われています。

働く目的や価値観も異なるスタッフに医師そして経営者と同じような高い要求をしても誰も付いてこないということです。

本ブログ著者も、コンサルティング先の医師から「なぜスタッフは分かってくれないのか?」という愚痴を受けることがあるのですが、そもそも考え方が違うということを認識する必要があるのでしょう。

そこで、クリニックのミッション(使命)、ビジョン(目指す未来)、バリュー(約束)を、さらに著者クリニックでは、スタッフの意見から生まれた行動指針も作成することで、自立型のスタッフを育成しています。

ミッション・ビジョン・バリュー浸透のための取り組み

ミッション・ビジョン・バリューを策定しただけでは意味がなく、しっかりと浸透させ、院長だけではなく全てのスタッフが行動をしないと意味がありません。

そのため著者クリニックでは次のような取り組みを行っています。

毎朝10分の時間で理念と擦り合わせる

朝のミーティングでは申し送りの他にも、曜日によって「理念確認」どの時間を設けています。

さらに担当スタッフを設定することで、課題をスタッフの自分事として捉えられるようにしています。

新規採用時のポイント

新規採用時はミッション・ビジョン・バリューの理念に共感してもらえ、同じ船に乗って頑張れそうな人であるかを重視します。

特に理念にある「患者さんのため」という部分というところへの共感は重視しているということです。

医療事務

受付で電話や急な対応が求められるので柔軟であること、人柄を重視して今活躍できなくても今後活躍できそうかどうかを重視します。

看護師

病棟からの転職でよくある「1人の患者さんにじっくりと向き合う」という志望動機には注意をしています。著者クリニックではじっくりと向き合う時間はないですし、これは看護師の自己満足でしかなく、大事なのは患者のためであることです。

患者さんのために自分は何をできるのかを考え行動できるかをチェックします。

他にも夫に働いていいと言われたから、他人に勧められたなどという志望動機も注意で、自律型の人材を望む場合はこのような人材はこのような受け身な志望動機は持ちません。

1日の患者数を増やすことと理念の両立

保険診療では単価が決まってしまいますので、1日の売り上げを増やすためには1日あたりの患者数を増やすことが重要となります。著者クリニックでは1日に70人以上の患者さんを診ていますが、このレベルになると1日当りの患者数を増やすためには患者1人当たりにかかる時間を最低限にしなければなりません。

ここでスタッフの中には理念にもある「患者さんのために」というところで疑問を持つ者も出てきます。

著者はスタッフに対してランチ会などを通して保険診療と経営の部分(専門性の高い医療を提供しても同じ報酬となる、利益が出なければ質の高い医療サービスは提供できず持続的な成長もかなわない など)を説明し、最終的には理念にある「患者さんのため」になることをスタッフに丁寧に伝え、納得感を持ってもらうような工夫をしています。

スタッフが理念を理解し自律して働く「エンゲージメント」

エンゲージメントとは個人の仕事に対するモチベーションややる気のことです。エンゲージメントが高い組織は労働生産性が高くなるという研究結果もあります。

スタッフがクリニックの理念や組織の目標の元、自分の目標を持ち、仕事へやりがいを感じながら主体的に業務に打ち込めること。そして、スタッフの熱意を後押しする経営の理解や人材育成の仕組みが大切となります。

著者クリニックでは次のようなことを行っています。

ほめワーク

感謝の言葉を朝礼時に伝える他、院内の「感謝伝言板」に残しています。

人間性は責めず行為を改善する注意をする

業務の中で改善すべきことは起こります。その際には、人間性を責めるのではなく純粋にその行為にフォーカスをあてるように心がけています。

もっとポイントはグッドポイントとセットで伝える

「ここをこうしてほしい」という改善点(もっとポイント)を指摘するときに、角を立てないように、「ここがよかった」というグッドポイントとセットで伝えます。

目標設定とフィードバック

月に一度、院長、事務長、課長、リーダーがスタッフ一人ひとりと面談を行います。

その際には、日々の業務における困りごとや悩みごとをヒアリングし、その解決を行います。

また、前月の目標の達成具合や次の目標についての話をします。

さらに組織として半期に一度スタッフ全員で目標をきめています。これによりスタッフは組織全体のことを自分事として行動するようになります。

まとめ

本書は「人」を切り口に医療経営を行うことの重要さを記しています。

人口減少時代において外来患者の減少がはじまっており、スタッフ採用の面でも人材不足が顕著となっております。

このような時代においては、スタッフを定着させ効率的に業務を行うエンゲージメント経営、そしてそのベースとなる理念経営、これらの実践により患者満足度を高めることで、患者さんやスタッフから選ばれるクリニックになるのでしょう。

スタッフの定着がうまくいかないクリニックは大いに参考になろうかと思います。

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