著者情報
野中時代
看護師、桑名市総合医療センター副院長
愛知県の常滑市民病院や名鉄病院などで看護部長を歴任後に、三重県桑名市の官民3病院を統合した桑名市総合医療センターの立ち上げに関わる。
本書では官民3病院の合併についても多く触れられている。
概要
本書では主に管理職目線、看護師現場目線におけるノウハウが記されています。
管理職目線では、経営と現場の間でどのように立ち振る舞うことが、現場と経営にとって最高のパフォーマンスを発揮できるかが記されています。
そのためには現場を理解し現場の意見を吸い上げ、経営者に伝えるための心掛けやテクニックが必要となります。
キーワードは「相手の承認」でしょう。
管理者は「元気ハツラツ」「さわやかな笑顔」
元気な第一声は雰囲気を変え、トップになる人が元気であることで周りも元気になる道標となります。
朝から笑顔の無いリーダーの職場ではリーダーに気を遣いチーム全体が暗い雰囲気になります。
ですので、積極的に笑顔で元気さわやかに挨拶を行うことを重要としています。
これは臨時職員や外部委託業者の方にもです。
「笑顔は誰もが作り出せる最強の「幸せ」」と著者は記しています。
職員の顔と氏名を一致させ氏名を呼ぶ
インプット方法としては、「接遇の良い山本さん」「委員会でよく発言する伊藤さん」など秀でている面と名前を結び付けて覚えます。
【ブログ著者より一言】
名前を呼ぶことは、相手への承認欲求を刺激する効果「ネームコーリング効果」があるとされます。これによりスタッフのエンゲージメントが高まりサービスの品質も向上すると言われれいます。
・「自分という個人を認めてもらえた」と感じられる
・相手に対して親近感や信頼感を持つようになる
・相手への好感度が高くなる
・名前を呼ばれると条件反射でオキシトシン(幸せホルモン)が増える
感謝の声かけ
管理者は現場スタッフのおかげで自分の地位が保たれていることを忘れてはいけません。
相手にありがとうの言葉をかけることで相手を肯定・承認します。
ありがとうの言葉はタイミングよく相手の顔を見て行うのが大事なことです。
これを、朝一番の救急外来や、イレギュラーのあった夜勤者、数日間休んでいたスタッフに行うことはとても有効です。
組織改善のためのプロジェクトマネジメント
組織改善のためのプロジ本書ではいわゆるプロジェクトマネジメントの手法が示されています。例えば次のようなものですが、実際に桑名市総合医療センターで行ったことも事例として具体的に記載されていますので参考になるでしょう。
課題設定(SWOT分析や二次元法)→アクションプラン(いつ・だれ・なにの進捗管理)→成果尺度や目標の設定と評価(病院ならではのKPI設定)
そのなかでも本ブログ著者が重要と思ったのは次の一文です。
『「経営=お金」というイメージばかりを伝えると、現場は疲弊する。成果として経営効果が出るような仕掛けをする。成果が出たときは、経営効果を数字で伝える。』
野中 時代. 働きやすい病院を明るく楽しく創るために ─知って得する対応力アップのコツ─ . 株式会社文芸社.ェクトマネジメント
根回し
意思決定をするためのステークホルダーが多かったり、難度が高い(新規事業や費用が大きい)ときには根回しは重要となります。
根回しは決してゴマすりではなく、先に賛成派を作るための配慮・気遣いであると著者は記しています。
そして、根回しをするにあたり、相手の順番や、相手の過去を否定しない、プライドを壊さないことが重要です。
これは特に医療施設ならではの権利・権威意識が背景にあるのでしょう。
4タイプの性格分析による院長へのアプローチ
相手の性格に合わせた話題の選び方が重要となってきます。特に、院長や医師に対してはこのあたりの分析を行ってうえで上手にアプローチすることが重要としています。
楽天家、経営者、研究者、共感者の4タイプの性格タイプの院長を想定したアプローチのシミュレーションの記載があります。
病院トップの院長は弱音を吐く場所がありません。
院長もまた病院職員の健康や安全を考え、現場に感謝をしながら病院経営のかじ取りを行っていますので、看護部長や事務長は院長の役割を理解し寄り添うことが重要です。
医療経営における稼ぎ頭「医師」へのアプローチ
医師は次のような心境を持っていることを理解する必要があります。
医師は患者の命を守るために失敗が許されないというストレスを抱えている。
入職時から「先生」と呼ばれているためスタッフに対して物事を訪ねたり相談することが苦手で孤独でもある。
よって、挨拶や労いの言葉がけを意識して寄り添うようにすること、認められ任され頼られることで医師も頑張れるようになります。
医師は医療経営における稼ぎ頭でもあるため、1人でも多くの患者さんも診るような仕掛けを作るのが重要です。
まとめ 看護部が変われば病院全体が変わる
看護師は病院内で7割を占める最大の集団です。
さまざまなプロジェクトに看護部がポジティブに取り組むことはプロジェクトの成功の重要なポイントであるというのは紛れもない事実です。
また、本書では院長や医師、現場職員などへの対応が多く記されていますが、根本にあるのは相手の承認です。
人は承認されることで生きることの満足感を得る生き物です。
相手を承認するために、感謝や励ましの言葉をかけること、そして相手の意見を傾聴することが、大きなプロジェクト成功への一歩目であることを記しています。
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