著者情報
西村誠司
にしたんクリニックを運営するエクスコムグローバル株式会社代表取締役社長。
エクスコムグローバル社はにしたんクリニックの運営の「メディカル支援サービス」以外にも、モバイル通信サービス、飲食店運営サービスを展開しています。
メディカル支援サービスではクリニックの立ち上げ支援やオペレーションの構築、IT活用の共有化などを行っているようです。
にしたんグループとして、にしたんクリニックは主に美容医療、にしたんARTクリニックは生殖補助医療を提供しています。梅田病院という産婦人科病院も運営しています。(本書中には2021年に山口県の産婦人科病院の経営権を取得したとの記載があるため、これが梅田病院と思われます。)
にしたんクリニック自体は2019年より開院しており、2020年の新型コロナウイルス流行でPCR検査事業を行い、2024年現在で合計15院の運営を行っています。
概要
スマートフォンで簡単に情報が手に入る世のなかにおいて、消費者に選んでもらうために最も必要なのは知名度であるという著者の考えが記されています。
にしたんクリニックはテレビCMでよく見られますが、「うちのクリニックはそこまで不要だよ」と思われる院長も多いと思います。
しかし、重要なのは知名度の規模ではなく、少しでもライバルよりも知名度を得ておくことが医療サービスというビジネスで勝ち抜いていくためには重要であり、そのための手法を知っておくということです。
本書を読むことで、知名度の重要性、知名度を得るためのテクニック、知名度で得られる副次的なメリットについて理解が出来ます。これによって、患者の獲得はもとより人材の獲得や地域社会への影響力を高めていくことにつながるでしょう。
売れるか売れないの明暗を分けるのが知名度
同じレベルの内容のモノやサービスがあったときに、人は知らないサービスよりも知っているサービスを選びます。
これは知名度そのものが顧客にとっては安心感=信頼となるためです。著者は本書中で「知名度は最強の信用度」であると記しています。
一方で知名度を高めてしまうことでそれだけ責任のある仕事をしなければなりません。顧客を裏切らないためにもそのための準備をしっかりと行う必要が出てくるためさらに成功力が高まるとしています。
相手の記憶に残すためのテクニック
これだけ情報があふれている時代においては「知ってもらう」こと「記憶に残してもらうこと」が重要になります。
相手の記憶に残すためにポイントを絞って伝えるのが大原則となります。
マーケティングセオリーに反する「サービス説明不要」
AIDMAという消費者の購買行動モデルがあります。
Attehtion(認知・注意)
Interest(興味・関心)
Desire(欲求)
Memory(記憶)
Action(行動)
著者はAttentionに全振りしています。そのためサービス内容を説明するようなことはしていません。
サービス内容はWEBサイトで確認してもらえばよいのです。
もちろん、他の指標も重要なことではありますが、複数の指標に同じ重要度を設ける、例えば知名度と好感度の二兎を追うことで非効率になるとしています。
シンプルに知名度のみを追うということがはっきりしていれば、そのための施策はシンプルになり、スピードを出して施策に取り組むことが出来ます。
これは変化のスピードの速い現代においては重要なことです。
良いサービスをしていたら売れる、いつか誰かが見つけてくれるは幻想
どんなに良いサービスをしていても、自サービスの良さをしっかりと知り、それを多くの人に知ってもらう努力をしないと認知してもらえず、記憶にも残らなくなります。
そして「××といえば〇〇」のように代名詞になれば競争相手は居なくなります。
本書では××風ラーメンを扱う2つの店を例として挙げています。
A店が××ラーメンを考案した元祖、B店は後発ではあるものの知名度を高めて代名詞となっています。このような場合A点がどれだけ元祖だしおいしいと言っても意味がなくなります。
【当ブログ著者より一言】
「消化器のクリニックなら日本消化器クリニック」という代名詞があったとしましょう。
もしかしたら著名な先生が消化器クリニックを開院していて業界の元祖だっととしても、消費者にとっては真の元祖がどうという事実はあまり関係がありません。
消費者は同程度のサービス内容であれば代名詞のサービスを選び、それがにつながるのです。
その他のテクニックも満載
やりすぎくらいがよい話題作り
マニアックな仕掛け
第三者経由・口コミからのアピール
タイミングの妙
バイブルは『ケインとアベル』
手書きの一筆で相手の心に響かせる
ナンパの指南書から学ぶ
知名度は採用でも有利に働く
サービスを選ぶ人の心理と同様に、求職者は無名クリニックより有名クリニックを選びます。
本人としても有名なところで働けるというのは知名度は重要ポイントでしょうし、周りの方も気にするものです。
【本ブログ著者より一言】
先に知名度を上げるためのその他のテクニックとして「第三者経由・口コミからのアピール」を挙げていますが、これはウィンザー効果という、本人が直接言うよりも第三者を介して伝えた方が信ぴょう性を高めるという心理傾向です。そのためクリニックの口コミ=第三者評価は知名度として重要な役割を果たします。
先週記したブログでちょうど口コミに関する内容を取り上げています。
知名度があることで副次的に得られるメリット
病院・クリニックの経営権の取得
本書中には山口県の病院の経営権取得に関する記載があります。
候補として15の法人が名乗り出ていたようですが、譲渡元の理事長が「にしたんクリニックとまず話がしたい」と言ってくださっています。
結果として競合のどこよりも早く交渉の席に着くことができ、そのまま話が進み経営権を取得することに至っています。
他にも神戸市の不妊治療クリニックの経営譲受の際にも、アポイントがすぐにとれ、はじめましての時点で信頼感をもってくださっていると感じ、話はとんとん拍子で進んだということです。
【本ブログ著者より】
山口県の病院の話はおそらく上にも挙げた梅田病院のことでしょう。
当社は医療機関のM&Aにも多く携わってきましたが、病院(入院病床が20床以上ある医療機関)のM&A案件の数は極端に少なく、さらにライバルが多いものでした。
入院病床の数は都道府県が決めており、診療所(クリニック)のように自由に開設できないためで、入院病床が欲しい場合は基本的には現在ある病院を取得する方法しかないためです。
ですのでM&Aの案件を見つけ、交渉の土台に乗るのも難しいのが現実です。しかし、にしたんクリニックは他の医療グループもあるであろう中で、その知名度を武器に売り手から逆指名を受けているくらいです。医療業界では新参者であるにしたんクリニックが、病院を取得する土台に乗るのも難しいと思われる中、病院を取得しています。これは大きなメリットと言えるでしょう。
資金調達
知名度があることで通常であれば話を聞いてもらえないような内容でも聞いてもらえ、さらには融資も行ってもらえたとしています。
著者の会社はコロナで売り上げが98%減まで落ち込むという異常事態が起こる前に、非常事態に備え複数の銀行から合計30億円の資金調達を行っています。
現金が手元にあったおかげで事業停止に陥ることもなく、新たにPCR検査事業を行うことでV字回復を果たしています。
影響力のある人や会社につながる
知名度から大手メディアに取り上げられたり、通常であれば繋がることの難しい大企業など、こちらが動かずとも寄ってきてもらえるようになり、知名度が知名度を呼び一人で増幅しつながっていきます。
結果として先に記したような譲受案件の成約など自身のビジネスにプラスにつながります。
まとめと感想
本書はビジネスマンとしてにしたんクリニックを知名度戦略で成功させている秘訣とその手法が述べられていました。
ビジネスというと医療機関こと個人クリニックにはあまり関係のないような話しに聞こえるかもしれませんがエッセンスの部分は同じです。
知名度はブランディングです。形成されたブランドに患者や求職者は魅力を感じ病医院に足を運んでくれるようになります。
医療は人(患者)に対して人(医療従事者)が動いて提供するビジネスということを忘れてはいけません。
そのためにも人の意思決定に関して「知名度」というのがどのような影響を与えているのかを理解し知名度を高めるための方法について学んでいく必要があるでしょう。
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