著者情報
弁護士事務所である弁護士法人ITJ法律事務所による著書です。作成は弁護士法人ITJ法律事務所の弁護士、執筆は笠間健太郎という弁護士のようです。
弁護士法人ITJ法律事務所 https://www.japanlaw.net
笠間 健太郎 https://kasama-law.com/index.html
概要
タイトル通りモンスターペイシェントに対する対応について弁護士がまとめた書籍です。
本書は近年増加しているモンスターペイシェントといわれる患者や家族への対応について具体的に記しています。さらにクレーマーとモンスターペイシェントの境界を理解することが出来るでしょう。
本書を参考にすることで、対応の線引きができるようになり、現場での判断の指標となるマニュアル作成にも活かせるでしょう。
【本ブログ著者より一言】
これまでに本ブログ著者もモンスターペイシェントと呼ばれるような患者さんや家族の対応をしてきましたが、私の中では「謝るところは謝って耐えるしかない」という感じで気長に何となく対応して来ていました。
しかし、受付の女性にとっては特に男性の対応は非常に怖い面もあるため、この方法が適切とは思えませんでした。時には警察を呼んだ方が良いこともあったように思えます。
おそらく多くの医療機関で、このようなモンスターペイシェントに対しては現場に対応を任せてしまっているのではないかと思いますので、本書を参考にして簡易マニュアルを作るなどできるかと思います。
モンスターペイシェントは現場スタッフの退職にも繋がる大きな問題です。モンスターペイシェントへの対応方法を定めて、いち職員の対応責任にしないことで働きやすい職場環境と安定経営に繋がると考えます。
モンスターペイシェントの境界
「クレーマー」や「苦情申出者」は常識的な態度で、内容も傾聴に値する指摘をする場合で用いられますが、このレベルを超えてモラルに欠ける態度を見せるような方をモンスターペイシェントといいます。特に暴言や暴力に及ぶものです。
暴言は自分が絶えれば良いと思っている方も居るかもしませんが、スタッフの一人が我慢して暴言を聞き入れると相手はエスカレートして院内で同じ態度を取るようになりますので、他のスタッフを守る意味でも暴言のレベルでモンスターペイシェント認定をして対応していく必要があります。
医師の応召義務
医師法 第19条1項 には次のような条文があります。
診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由が無ければ、これを拒んではならない。
この「正当な事由」という部分で、患者さんとしてどこまで対応すべきかという判断が難しく、モンスターペイシェントとクレーマーの線引きに苦慮する結果、モンスターペイシェントの問題が表面化しづらいという実態が現場にはあります。
備えるべきポイント
モンスターペイシェントからスタッフや医療機関を守るという認識をしっかりと持つことが大切です。
そのためにマニュアルを作成し、実際にマニュアルが使えるように研修を行っておくことは重要なことです。
簡易マニュアル
簡易マニュアルは作成しておくべきですが、起こっている相手を目の前にしてマニュアルを見て話す余裕は無いでしょう。以下のような覚えきれる程度のマニュアルを作りましょう。
- 説明を受け入れず大きな声で騒いだら他の人を呼び複数人で対応する
- 110番や最寄りの管轄所の番号を大きく掲示する
- 明らかに他の患者へ迷惑をかける行動をとった場合、顧問弁護士の連絡先をすぐに伝えられるようにしておく
警察や弁護士との連携
警察や警察OBと繋がっておくことは万が一の時に有効です。
何となく暴力では通報すべきとなっていることは多いのですが、迷惑行為や暴言で即通報という流れになっていない場合も多くあります。
レコーダー(音声、ビデオ)機器の配置
証拠となるように機器を使えるようにしておきます。
モンスターペイシェントへの対応ポイント
複数人で圧倒
医療機関側は複数人で臨み数で圧倒しましょう。援護射撃も可能です。
録音は告知しても良いしあえて堂々録音しても良い
話し合いの場では録音をするようにしましょう。相手に告知しておく必要はありません。堂々と「録音を取りますね」と断ってから録音するのは相手の抑止力にります。
責任者を出せには「その必要はありません。」
「責任者を出せ」への回答は「その必要はありません」というしかありません。
本件については自分が責任者であると伝えてトップを出さないようにしましょう。
これはその場で何らかの決定をすることを防ぐためです。
謝罪をうまく使う
謝罪をすると非を認めたと思われる居方も多くいます。「非を認めたわけでない謝罪」を有効に使うことでモンスターペイシェントと気勢をそいだり、予備軍のモンスター化を防ぎましょう。
「非を認めたわけでない謝罪」は相手の感情へ配慮する部分のみへ行いましょう。例えば次のようなものです。相手の深いな気持ちとう感情に対しての謝罪です。
「不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」
実例と対応方法
本書ではよくある実例を17例挙げ、それに対する具体的な対応について記しています。
当ブログでは5つのみピックアップしましたが、これら以外にも次のような例が挙げられています。
- 待ち時間が長い
- 親しみを込めたつもりが
- 酔っ払い
- ジェネリック医薬品
- 先生は患者のことを考えていない?
- 入院ルールを守らない
- セクハラ
- 患者家族からのクレーム
- 誠意を見せろ!
- 〇日の〇時に電話で方向しなさいよ!
- 大げさな患者だと思ったが・・・
- 常習者への対応
- 患者が小児の場合
受付での暴言
他の患者さんにも迷惑になるため受付や待合から場所を変えるのが望ましいです。相手が拒否をするかもしれませんが、移動してもらいます。
相手の限度がスタッフや他の患者さん医療機関そのものの迷惑になっていることを伝えます。
相手の言動が収まらないようであれば弁護士を通すように伝えます。
セカンドオピニオン
何を聞いても納得しなかったり、自分の思い通りの言葉が返ってこないと納得できない人がおり、診察に以上に長い時間を要してしまうおそれがあります。
治療方針に納得がいかないのであれば他の医療機関をあたっていただくことを伝えましょう。
気に入らないから医療費を払わない
職員の態度が気に入らない、待ち時間が長い、診察結果に納得いかないなどの理由で医療費を払わないと主張をする患者が居ます。
医療機関と患者には診療契約が成立していますので、たとえ患者が気にならなかったとしても患者は支払いの義務があり、医療機関には請求する権利があります。ここは、強い姿勢で臨みます。
その場で持ち合わせが無い場合は期日を決めて支払いを要求し、それでも支払いが無いようであれば内容証明を送ったり訴訟手続きも行えます。
反社会的勢力をちらつかせる
反社会的勢力をちらつかせて脅迫することで要求を通そうとする場合があります。
このような場合、脅迫には屈してはいけません。このような行為は脅迫・強要・恐喝にあたるとして犯罪行為になる可能性もありますので弁護士や警察への通報が必要です。
一筆を強要する
モンスターペイシェントは「一筆」という表現が好きなように感じます。これはとくに法律用語ではありません。
医療機関では患者との間で必要な書類はすでに作成済みのはずです。それ以外にモンスターペイシェントが言う意味の分からない書類を作成する必要はありません。逆に作成してしまうと裁判などで証拠となってしまい自体が泥沼化するため、弁護士を通してその場ではサインしないようにしましょう。
まとめと感想
クレーマーとモンスターペイシェントの境界を理解し、モンスターペイシェントへの対応方法を定めておくことの線引きが分かる本書でした。
まずはよくある事例を理解し、それを踏まえたうえで簡易マニュアルを作成しておくことから始めるのが良いでしょう。
法律的なことは難しいことですが、マニュアルを整備し、それ以上のことは弁護士や警察に相談すると決めておくこで、モンスターペイシェントを過度に恐れないようにでき、スタッフも経営者もストレスを過度に感じることなく持続可能な医療機関運営に繋がっていくでしょう。
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