著者情報
林 秀樹
特定医社会保険労務士で株式会社エンパワーマネジメント 林労務経営サポートの代表です。
医療関係の労務問題への経験が豊富ということです。
また、通常は数日のヒアリングで作成する修行規則ですが、忙しいクリニックの院長等のことを考え1日で就業規則を作成するサービスを提供しています。
概要
クリニックの経営においてクローズアップされがちな集患や採用、税務ではなく、あまり具体的にクローズアップされない修業規則に焦点を当てた内容となっています。
たかが就業規則を思われがちではあるものの、就業規則により人材の採用や定着に大きな貢献をするケースがあることを示しており、具体的にどのようなものを作成すればよいかが記されています。
また、多くのクリニックで使用されている「雛形の就業規則」や「どこの業界、どんなサイズの企業で使われていたか分からないような修行規則」の転用により自院に合っていない就業規則を使用していること、その危険性について記しています。
そして、自院を守るための規則として、入れておくべき条文も記載があります。
本書を読むことで、人材マネジメントと自院の労務防衛に役立つものと考えられます。
内容はコンパクトに100ページ以内で具体的にまとまっており、休職期間に関する条文などすぐにでも取り入れられる内容も多くありイメージがしやすい内容となっています。
タッフの退職理由は小さな不満の積み重なりがほとんど
本書前書きには次のような一文があります。
『「先生。ちょっとお話があるのですが…」 スタッフさんからこんな言葉を掛けられて、ドキッとした経験をお持ちではありませんか? 何故ドキッとしてしまうのでしょう? そうです。先生はこの後に続く言葉を知っているからです。 「今日で辞めさせて頂きたいのですが…」 「またか…」』
(林 秀樹. クリニックのための正しい就業規則のつくり方・運用の仕方: 「先生、今日で辞めます。」を防ぐ採用、定着を実現する労務管理ノウハウ より引用)
辞める理由を聞いて一応は答えてもらっているとは思いますが、その理由が全てではありません。
小さなことが積もり積もってある日どこかで爆発してしまうということを知っておかなければならないのです。
【本ブログ著者より一言】
多くの院長と話していてよく聞くことです。
院長は辞める理由を一応は聞くとは思います。そして、院長はその理由の原因となる問題を解決することを考えるのですが、辞めていくスタッフが声に出した退職理由というのは氷山の一角に過ぎないということが多いのです。
しかし、概して医師は頭の回転が早く、解決方法をすぐに考え出せるため、「Aという原因があるのならBという打ち手だ」という回答をすぐに出してしまう傾向があります。
スタッフは根本的な理由を言わないため、結果的には対症療法的な打ち手となり、根本が解決せず現場が疲弊しているのはよく見受けられます。
オープンルールの時代(就業規則は浸透させてはじめて意味がある)
就業規則を隠したがる院長もいます。
それは就業規則には休暇などのスタッフの権利が定められており、スタッフがその権利を主張してくるのではないかという不安からです。
しかし、今の時代はスマホで何でも調べられる時代です。労務関係の法律は隠してもスタッフがすぐに調べてしまいますし、院長よりもスタッフの方が労務に詳しいということはよくあるものです。
よってこれからのスタッフマネジメントは「オープンルール」とするのがかえって良い結果をもたらせると記しています。
クリニックや院長にとっては有利とはいえない情報も全てオープンにし、その代わり、クリニックで定めた独自のルールも定め、その浸透をおこなうというものです。
クリニックは法律をしっかりと守り、労働者の保護を行っているということ。代わりにスタッフはクリニックのルールをしっかりと守ってほしいことを伝えるのです。
これはスタッフの定着にも繋がるスタッフマネジメント手法になります。
雛形の就業規則の危険性
雛形の就業規則は労働者寄りになっている傾向があります。
ゆえに、本来は自院を守るための就業規則が労働者の権利を強く保護し自院を守れるような作りとなっていることがあります。
よって次のことを考慮に入れる必要があります。
最新の法令に準拠しているか
目安として5年前に作られた就業規則がインターネット上に残っているものは時代に合っておらず危険と言えます。
医療機関という特殊な事業所でのトラブルをふせぐための条文
精神疾患での休職
例えば、精神疾患で「一定期間」求職したいというスタッフが居たとしましょう。院長は治るまで「一定期間」は休職して良いと伝えます。現場も「一定期間」は少ない神通で頑張り復職を期待するという状況です。
「一定期間」という言葉は具体的ではありません。1週間なのか、3か月なのか、1年なのか捉え方は人それぞれです。
雛形の就業規則では1年や2年などと規定しているクリニックも多くあるようですが、小さなクリニックには合っていないことは明らかです。きちんと期間を定めた条文を記し、さらには復職後の早期休職もそうていされることから別途その対策のための条文を記すのが良いでしょう。
出産手当金や傷病手当金
協会けんぽでは出産手当金というものはありますが、医師国保や歯科医師国保にはないということです。
傷病手当金では条件が大きく異なるようです。
協会けんぽ(一般の中小企業が入る健康保険組合)を想定した就業規則の雛形を使うと、休職期間中は完全に無収入ということになっていましますのでトラブルの原因となります。
逆に、このような出産手当金が入るような健康保険組合に入っているのであればそれは自院の強みとして後にも記す「働き方ガイドブック」に強みとして記載してしまえばよいのです。
退職
小さなクリニックでは1人の退職が大きな影響を与えます。よって自院を守るためにお次のような条文はひつようです。
退職をする〇か月前までにということを記載し伝える、退職が決まっても退職日まできちんと働いてもらうこと、退職日までに引き継ぎをきちんと行うこと、さらに、これらを守れなかった場合の処分として退職金の減額や不支給を規定しておくことです。
よって退職金制度もうまく使えるのではということになります。
就業規則と一緒に働き方ガイドブックを作る
就業規則は誰も見ないということが多くあります。就業規則の浸透のために「働き方ガイドブック」といものを作ることを著者は勧めています。
働き方ガイドブックはとくにスタッフが気になるであろう労働時間や休日、休暇などについて分かりやすくイラストなども用いて分かりやすく作成したものです。
就業規則を浸透させていれば浸透させる努力をしなかった結果として起こるのが、「そんなの知りません」とうトラブルです。余計なトラブルで悩んでいる院長が多くいます。
オープンルールにして余計なトラブルを未然に防ぎましょう。
本書には『先に言えば説明。後に言えば言い訳』と記されています。事前に伝えていれば防げるトラブルは多くありますし、そのトラブルから他のスタッフの不満を招くことも減るでしょう。
働き方ガイドブックで採用と定着を有利に進める
働き方ガイドブックで採用時の説明をおこなうことで「コンプライアンス意識の高いた職場だ」「こそこそ隠すことなく約束を守ってくれる職場だ」と印象付けられます。
また勤務開始後もガイドブックがあることでその意識は継続し、トラブルも減るため、人材の定着にも役立ちます。
就業規則の本質的な役割は労使トラブル対策である
自院や自身を守るためにも就業規則やその浸透は必要なものです。
基本的には労働者が強いため就業規則があっても労使トラブルに勝つのは難しいということですが、重要なのはいかに小さく負けるかと記されています。そのための武器が就業規則です。
まとめと感想
たかが就業規則、されど就業規則です。
組織マネジメントにおいてはルールの明確化が重要というのは言うまでもありません。
院長の機嫌でころころと判断が変わるようではスタッフはなかなかついてこないものです。
そこで、就業規則や働き方ガイドブックという指針を示すことで、判断にブレが起こらず労使ともに明確な基準をもちながら勤務を続けることが出来るようになるということです。
また、就業規則の無い少人数のクリニックも多いとは思いますが、組織マネジメントや自院の防衛という観点から就業規則作りを行っても良いでしょう。
理念に沿って就業規則の一部をスタッフと一緒に作ったという事例も下記書籍に記されており参考になるでしょう。
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