著者情報
花房 崇明(はなふさ たかあき)
医療法人佑諒会理事長、千里中央花ふさ皮ふ科院長
2004年大阪大学医学部医学科卒業。2017年千里中央花ふさ皮ふ科開院。2021年分院として江坂駅前花ふさ皮ふ科開院。2024年みのお花ふさ皮ふ科開院。
皮膚科専門医。
医療法人佑諒会
千里中央花ふさ皮ふ科
江坂駅前花ふさ皮ふ科
みのお花ふさ皮ふ科
概要
著者は保険診療による一般皮膚科として開院後の1年半後に美容医療を始めています。
一般皮膚科は医療モールの2階で、そして3階で美容医療を行っています。同ビル内での拡張となるため、同線やオペレーションについて保管所の許可を得ています。
また、1院目(2017年)の千里中央花ふさ皮ふ科開院後に同様のハイブリッド(保険の一般皮膚科と自費の美容皮膚科)な皮膚科を2院開業しています。
本書ではハイブリッド皮膚科のメリットや現在の人員体制、スタッフマネジメントの失敗から得られたスタッフマネジメントの方法まで記されています。
また、これから診療科を選ぶ医師に向けた皮膚科に関する情報も記されているため、診療科に悩む医師にも一読の本です。
保険診療の皮膚科は患者単価が診療科内で最も低い
皮膚科はニーズが高く集患はしやすいのですが、患者1人当たりの平均単価が3000-4000円と、内科に比べて半分程度になります。
そのため皮膚科では患者1人当たりの診療時間を短くして回転率を高めないといけない経営的な事情があります。
「圧倒的に丁寧な診療」を実現するための美容皮膚科
著者はミッションとして「圧倒的に丁寧な診療」を掲げています。
しかし、上記の回転率を高める必要のある経営において、このミッションの実現と板挟みになっていました。回転率を高めようとすると、患者1人当たりの診療時間をぎりぎりまで減らしスタッフも余裕がなくなるため、スタッフも患者も満足度が下がります。
そこで単価の高い美容皮膚科を加えることで1人当たりの患者単価を上げ、患者1人への丁寧な診療を実現しています。
患者満足度の向上
他院では対応できないケース
他院ではレーザー治療の結果が伴わなかったりする場合もあります。
また、他院で副作用の火傷を負うようなケースでも、保険診療にて継続して対応が可能なため患者さんは安心して通院が出来ます。
治療の選択の幅が広がる
ハイブリッド皮膚科であることで患者さんの症状合わせてあらゆる治療方法の提案が行えます。
例えば、アトピーの患者には美容皮膚科のような施術をお断りするケースでも、皮膚の状態を判断して美容医療を提供できたり、もし皮膚トラブルがあった場合でもそのまま同院で適切に対応が出来ます。
また、ニキビやニキビ跡の治療でも自費で行うことで有効な方法があり、保険診療から自費診療迄のオプションがあることで患者さんの選択肢が広がります。
医師やスタッフの満足度向上
自費では保険診療の制度に縛られないため、様々なサービスの発想と金額設定が可能になります。
それゆえに、スタッフの提案等で化粧品やエステなど、保険診療ではできないことが可能になり、スタッフは自分自身の企画によりやりがいや成長が得られるようになります。
また、美容皮膚科の領域は新しい診療や技術が生まれており、好奇心を満たすという意味でも医師としてとてもやりがいのある分野です。
スタッフマネジメント
著者は「患者さんと真摯に向き合い、良い診療をしていれば、自然とスタッフがついてくる」「こんなに腕のいい人気ドクターと働けて幸せだろう」と考えていましたが、大きな間違いでした。
スタッフに対しても患者さんと同じくらいしっかりと向き合い、大切にしなければならなく、スタッフがやりがいをもって持って働ける環境を作らなければならないことに気づいています。
医者は社会の常識を知らない
医師は研修医時代から「残業代が出ない」「有給休暇が取れない」「自己研鑽としての勤務時間」などを経験していることが多いです。
このような医師の働き方の感覚を一般的な感覚に持ち込むことは危険です。
例えばお昼休憩時のお弁当を食べながらの勉強会は一般的には勤務時間になります。
他にも、自由診療の消費税や減価償却など会計上の仕組みについても知っておく必要があります。
次々に辞めていくスタッフ
院長として夜中まで頑張っている中で、職員満足度調査を行ったところ職員の不満が多く出てきたことで著者はピリピリとしていました。
ミスが起きた際に「クリニックの文句を言っているけど、患者さんが来ないと、スタッフには旧りょを払えなくなるんだよ」と叱責したりもしました。
結果として、スタッフとの距離が生まれるようになり、月末になると退職の申し出が来るようになり、新しい人を採用しては退職というのを繰り返しました。
本来であればミスが起こらないような仕組みを作っていなかった飲料の責任であるところを、当時は人を責め、いらだちを隠せませんでした。
本書ではさらに、15人の大量一斉退職と、ドクターによる引き抜きという大きな失敗についても生々しく記されています。失敗についての具体的な対応策(ドクターの誓約書)も記されており必読です。
スタッフが成長できる仕組み
医療事務では通常は医療事務専業となりがちですが、シュライバー(医師のカルテ入力補助)やカウンセリングなどに職の幅を広げられる環境があり、さらにできるようになることで手当も付きます。
院内外の研修会(院外研修の費用補助や代休もあり)にも積極的に参加してもらい、それを院内でシェアすることで院内全体のレベルが上がっていき、結果として患者に還元が出来ます。
また、マニュアルの整備もぬかりなく、業務マニュアルは100ぺージ以上を開設しているということです。
女性が働きやすい職場
どうしても女性が多くなる職場のため、女性が働きやすい環境を整備しています。
そのために、柔軟な働き方(育休産休はもちろんのこと、急な休み、フレックス制、早帰りなど)、完全予約制による残業防止などの環境整備を行っています。
リーダーとしての心の「あり方」
著者は大量離職までは「やり方」ばかりに目を向けていました。やり方とは、福利厚生や施策などのやり方です。
大量離職後は経営者としての心の「あり方」に力を入れています。
マネジメント関連の書籍を読んだり、開業医の経営塾・コミュニティである「医療経営大学」「M.A.F(医療活性化連盟)」に参加して学んでいます。
【成果保証付き!?】医療経営大学とは?内容や講師について調査
著者は「人として思いやりがない、自分の殻に閉じこもって人の意見を聞こうとしない経営者には誰も付いてこない」ということを学んだと記しています。
まとめと感想
著者は保険診療の一般皮膚科を開業後に、保険診療での限界を感じました。
ミッションである「圧倒的に丁寧な診療」を実現するためには低い皮膚科の保険診療の単価のみでは難しかったのです。
また、アトピーのレーザー治療やニキビ跡の治療など、自費でしか行えない診療のニーズに気づきました。
そこでハイブリッド皮膚科とすることで、圧倒的に丁寧な診療を実現しつつ、患者の選択肢を増やし満足度を高めるということを実現しています。
本書の多くの部分で組織マネジメントの手法について触れられているのも印象的でした。
医療サービスは人によるサービスのため人のマネジメントが重要です。
そのための、手法や考え方については皮膚科以外の診療科の経営者にとっても大いに参考になるものでした。
つい先日アップした「手放す習慣」(玉城有紀先生)もそうでしたが、本著者も医療経営大学やM.A.Fで勉強されているようです。
これらの経営塾は日本の開業医の経営面を大きく後押ししています。
本ブログ著者は長年医療系に関わってきましたが、どうしても医師業とマネジメント業の両立が難しく、スタッフの疲弊やそれに伴って患者さんへのサービス品質の低下というものを見てきました。
医療経営大学やM.A.Fは結果的に日本の医療業界にとても良い影響を与えてくれているのかもしれません。
医療経営大学の小暮裕之先生は自分の著書で「7つの習慣」に感銘を受けたと記していましたが、本ブログ著者も同じように「7つの習慣」に感銘を受けた1人でもあります。
【書評】『クリニック経営のための最高の人材育成 ーー チームを成長させるリーダーの考え方』小暮 裕之
このような考え方の流れが医療経営業界にもしっかりと浸透していけば素晴らしいと思いますので、陰ながら応援したいと思います。
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