著者情報
柴田雄一
医療経営コンサルティングの会社である株式会社ニューハンプシャーMCの代表です。
当書籍以外にも「“集患”プロフェッショナル」、「“開業”プロフェッショナル」「デジタル”医業”プロフェッショナル」があります。
米国でのMBA取得時に体得した経営のセオリーやフレームワークを医療経営に当てはめた医療経営コンサルティングを実践しているようです。
概要
開業医の心配事のトップに来る「集患」ですが、集患を目指す開業医にとって一読すべき内容の書籍です。
近年はWEBを用いた集患マーケティングのテクニックに関する書籍も出てきてはいます。
しかし、SEO、リスティング広告、SNSの利用などの表面的なテクニックに終始していることも多いのが現状です。
本書は集患マーケティングで根本的に重要である「患者との接点」や「フレームワークによるロジカルシンキング」が元にあります。
本書で集患マーケティングの本質を理解することで「なぜその施策(SEOなど)をやっているのか?」を理解することができ、小手先のテクニックではなく、より本質的で効果的な集患マーケティングに役立つでしょう。
本書は主人公である開業医(鈴木)と経営コンサルタント(影虎=鈴木の奥さんの友達)による物語形式で記されています。
鈴木のクリニックは開業後1年間経過後も平均患者数は15-6人/日程度と患者数が低迷しており、銀行から追加融資を受けるような状況です。
このような状況の中、影虎が鈴木に気づきを与えながら経営改善を主に「集患」という視点から行っていく物語になります。
なお、本書のあとがきに書かれていますが、この開業医(鈴木)の設定には実際のモデルが居るようです。
物語形式であるため本書読者自身は主人公になったように引き込まれ「我が事」として認識でき、さらにレストランの集客事例など分かりやすい事例を医療経営に展開していくため初心者でもスムーズに集患マーケティングの基礎を学べる構成になっています。
ECストアなどとは異なりWEBとリアルの両輪で集患マーケティング施策を行うべきクリニックにとってはバイブルとなるような内容で一読の価値ありです。
現状を素直に受け入れ実行する
モチベーション:自分の気持ちを盛り上げる内発的な動機付け
インセンティブ:自分の気持ちを盛り上げる外発的な動機付け
インセンティブは受け入れる人間が素直に取り込まなければ決して動機付けにはなりません。
経営者は素直に「今ここにある危機」を受け入れ、デターミネーション(決意や覚悟という意味)し、やる気をふつふつと出していきます。
そして実行することが重要です。知っていることと実行することは全く別話です。
クリニックの強みを30個挙げられますか?
良い医療=良い経営ではないのです。良い医療は必要条件です。患者が集まるクリニック=良い経営と言えます。
患者が集まるクリニックになるための十分条件となりうる患者を引き付ける差別化要素を見つけそれらを患者に訴求していかなければなりません。
マーケティングというとモノを売りつけるような感じがして医療にそぐわない意識を持たれる方も居ますが、マーケティングとは患者がクリニックに魅力を感じ集まってくる理由や差別化要素とも言えます。
本書ではクリニックのマーケティングの7PとしてProduct,Place,Price,Promotion,Physical evidence,Process,Peopleを挙げ、経営分析でよく使われるSWOT分析で自院を知っていきます。
タンジェントポイント戦略
本書では患者接点のことをタンジェントポイントと記しています。
患者接点とは、患者とクリニックの間に存在するいくつもの接点です。例えば、折込チラシや看板広告、クリニックの外観、受付、診察、口コミなどです。
患者が来院したいと思えるように、患者接点において患者とコミュニケーションをとれるような環境を作り上げていく必要があります。
本書主人公はタンジェントポイントのアイディアを100個出し、フレームワーク(タンジェントポイントの環やAIS(CE)AS)に入れ込むことで自院が患者を獲得するための道筋を見える化していきます。
タンジェントポイントの環のフレームワーク
タンジェントポイントを来院前、来院、来院後、伝聞の4カテゴリーに分け、カテゴリーごとの考え方や仕掛ける施策について考えていきます。
例えば、来院前は、新規患者を獲得していくために必須のタンジェントポイントが含まれます。そのため、認知や来院行動の促進が目的となるため、看板やネット広告を考えそこにどのような内容を入れ込むかを考えることになります。
具体的にはクリニック名を目立たせるよりは診療科など患者の行動に繋がる情報を目立たせることになります。
タンジェントポイントにおける体験(真実の瞬間)
タンジェントポイントにおいて患者がどのような気持ちを抱くかを考えます。ポジティブな気持ちを抱いた患者はファンとなり再来院につながります。ネガティブな気持ちを抱いた患者は来なくなり悪い口コミも広げられたりします。
具体的にはクリニック内のトイレというタンジェントポイントにおいて、トイレが汚れていたとなると患者はネガティブな気持ちを抱きます。
繁盛レストランにおける例
本書ではタンジェントポイントについて、開業医の鈴木がその奥さんと行くレストランで例を示しています。
例えば、奥さんが鈴木に対してこのレストランを紹介することは「口コミ」になります。
センスの良い内装、石窯が見えるように設計された店内、レストラン紹介の小冊子
、接客などのタンジェントポイントにおいて真実の瞬間が演出されています。
さらに、これをフレームワークであるAIS(CE)ASモデル(A:注意 I:興味 S:検索 C:比較 E:検討 A:行動 S:共有)に落とし込み見える化をしています。
【当ブログ著者より一言】
このレストランの具体例は本書でも必見です。
自身のクリニックに当てはめていけるような具体的で実践的な内容です。
人がサービスにお金を出す際の行動がよく見えるようになります。
増収4つの視点
新規患者獲得プログラム
患者が何をもって当院を認識して来院したかを分析するのは重要なことです。
よく問診票の最後に「最初に当院を知ったきっかけ」を入れることがありますが、これは最初に入れこみます。これにより無記入を減らし、どのタンジェントポイントが有効かをけんしょうできるようにします。
そしてできるだけ具体的に記します。「看板」ではなく、「県道沿いの看板」「電柱の案内板」などとします。
新規患者獲得プログラムは口コミと広告宣伝に分けられ、それぞれ別の対策を打っていきます。
口コミ
家族や友人からの紹介、ネットの口コミのことです。
口コミは対策をしなくても自然発生しますが、誘発する対策を行います。
また、口コミは効果が出るまで数か月かかります。
誘発する対策としては、体験の共有化がポイントになります。
症状経過伺いハガキや健康相談会の開催など、物や場所が共有されることで口コミが誘発されます。
本書では症状経過伺いハガキのように営業じみたことを行うことに主人公の鈴木は疑問を持ちます。しかし、症状伺いハガキ自体は患者のQOL向上に繋がるという医師としての大きな目的に繋がることに気づきます。症状伺いハガキは患者のQOL向上とともに口コミ誘発にもつながり、再来促進に繋がります。
広告宣伝
クリニックの前を通って知ることや新聞やチラシ、立て看板、電話帳などです。
即効性が高いですが効果を発揮する期間は短いです。患者獲得を急ぐ場合に利用します。
さらに広告媒体のタンジェントポイント別(紙媒体:地域新聞など、鉄媒体:駅看板など、直媒体:クリニック自体の看板など、人媒体:地域医療連携など、電子媒体:ホームぺージなど、電波媒体:テレビなど)でどのような対策が打てるかを考えていき、費用対効果を検証します。
また、広告とは異なる「広報」についても具体的に記されており、イベントのプレスリリース、執筆活動などがあります。
患者離反防止プログラム
患者ロイヤリティ(患者のクリニックへの忠誠心や愛着心のこと)を向上させることは患者の離反を防ぎます。
ロイヤリティの高い患者はRFM分析(R:最新利用日、F:利用頻度、M:消費金額)で見える化をします。本書ではシンプルにするためRとFで分析を行っています。ロイヤリティの低い患者を見える化することからはじまります。これは以下の来院頻度増加プログラムでも診療単価適正化プログラムでも同じ考え方をします。
離反患者を1人出すと言ことは単に1回の診療機会を失っただけではなく、年間ならば例えば診療単価が1万円なら1万円×12=12万円の利益を手放していることになります。これが10人になれば120万円です。さらに離反せず常連となった患者は新しい患者を連れてきてくれます。
離反患者を少なくすることがいかに重要かが分かるでしょう。
離反患者を少なくするために、次回予約の徹底、来なかった患者への連絡、症状経過伺いハガキなどを行うようにします。
離反患者を少なくすることの重要性と対策については下記書籍でも触れられています。
【書評】『最小の労力で最大の財産を生み出す クリニック経営 4つの原則』 三橋 泉
来院頻度増加プログラム
当初は患者ニーズで患者は来院しますが、患者のニーズを新たに引き出します。例えば生活習慣病で通院する患者さんに対して「痛みのケア」という神経内科的(鈴木は神経内科医)な提案や漢方を提案することです。
診療単価適正化プログラム
患者の潜在的な欲望であるウォンツを引き出します。例えば早期発見や予防的な意味合いで行う検査です。
医師として無駄な検査はしたくないと気持ちはあるかもしれませんが、患者のリスクを考え良いタイミングで検査の提案をするのは患者にとってはありがたいことなのです。
まとめと感想
タンジェントポイント(患者接点)とフレームワークを使うことで、来院(予定)患者の見える化を行い、それに対して施策を行います。さらにデータに基づき適切な対応を検証していく事になります。
近年はペイシェントジャーニーという言葉も生まれていますが、いかに患者が「来院したくなるか」「来院を続けたくなるか」「来院する人を連れてきてくれるか」を考えることが集患に重要なのかが分かります。
マーケティング手法の一部だけを用いた小手先のテクニックにあふれていますが、まずは患者接点を理解し集患マーケティングのコアの部分を理解することは非常に重要なことですし、競合からの差別化のポイントにもなります。
横文字が多く人によってはとっつきにくい印象はぬぐえませんが、物語形式ですので自然に理解が進みます。マーケティングということばに引っかかりがある先生ほど読んでいただきたい本です。
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