【書評】『開業医が読まざるを得ない本: 2025年に選ばれ生き残っているために』山崎 宏

書籍レビュー

著者情報

山崎 宏

医療経営を革新する百寿グループの代表で、医業経営コンサルタント、社会福祉士、認知症学習療法士、心理カウンセラーとのことです。

概要

本書は2022年に発売されたものです。2025年の開業医の状況について、2024年度の診療報酬、介護報酬同時改定時に起こるであろう報酬引き下げ「トリプルインパクト2024」について記し、今後の開業医があるべき姿について独自の視点と独特な語り口調で記しています。

特に独特な語り口調の文章で「おぬしは・・・」「・・・じゃろう」「・・・なんじゃ」という仙人じみた表現が随所に表れます。これについては読みやすいかどうかは賛否両論あるでしょうけど、ビジネス書を毎日のように読んでいる私にとってはあまり出会う表現ではなく、案外新鮮な気分で読み進めることが出来ました。

また、Kindleのスマホで読んでも100ページほどと、1時間程度で一気に読めてしまいますので、この書籍はどうなんだろうと思った方はいっそ読んでしまった方が早いでしょう。

当書籍は主に次のような内容から構成されています。

  • 2011年の東日本大震災で一旦は棚上げにされた医療再編シナリオ「トリプルインパクト2012」での医療費抑制政策が、2024年に「トリプルインパクト2024」として執行されるであろうということ
  • コロナによって高まった患者意識と団塊世代患者の情報武装
  • 本来の開業医のあるべき姿とお勧めする自費サービスについて

あまり病医院の開業本に書かれていない日本国の政策的な面や、現在の後期高齢患者ではなくこれからの団塊の世代の患者のタイプについて述べられており、少し変わった視点から医療経営というのを見直すことができる一冊になるかもしれません。

なお、本書が発売された時点で2024年の診療報酬改定などについて予言をされていますが、こちらの正否については、一部当たっていることもあるが一部は当たっていないという感じでしょう。

例えば、当たっているといえそうな2024年度の診療報酬改定内容としては次のものが挙げれられるでしょうか。

a.糖尿病、高血圧症、脂質異常症が特定疾患療養管理料から外れる

b.白内障の手術など短期滞在手術基本料の減算

a.についてです。

内科系クリニックの患者の多くは、糖尿病、高血圧症、脂質異常症(高脂血症)です。これらの疾患を抱える患者は定期的な薬の処方のために通院するため、ある意味「単価の高い固定客」のようになっています。2024年度の診療報酬改定ではここにメスが入れられました。

b.についてです。

白内障の手術(水晶体再建術)に関しては75才前後がボリュームゾーンになっています。(第8回NDBオープンデータ  短期滞在手術等基本料_性年齢別算定回数より抜粋 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177221_00012.html )

近年は多くの眼科が後期高齢者をターゲットとした白内障手術を行ってきましたが、2024年度の診療報酬改定ではここにメスが入れられました。

また、当たっていないものとしては「診療報酬のマイナス改定」というところです。2024年度の診療報酬改定はプラス改定となっています。なお、このプラス改定では物価高や賃金上昇の観点も含まれています。

私が興味を持ったのは以下の文章です。

「団塊世代の患者は、これまでの後期高齢者のようには甘くないぞよ。時代時代のムーブメントを起こしてきた市場のリーダーであり、情報武装も怠らず、納得のいかないものは購入しない。そんな消費性向を持った彼らの医療サービスに係る価値観として、いわゆる過剰医療に対する抵抗や反発が顕著なんじゃ。」

現代のスマホ社会においてスマホを使いこなす団塊の世代の患者は、薬の情報や医院の口コミなどを簡単に手に入れます。このような患者に対してどのような医療サービスを提供していくかが問われるということでしょう。

「天の声とは、患者の声だ。四半世紀以上も前から、患者が医師に望むことは変わっていない。

なんでも相談に乗ってくれること。 要は、患者の話に耳を傾けてあげることである。医聖・ヒポクラテス、赤ひげ先生こと新出去定、榊原伊織(竹脇無我さん演ずる小石川療養所の医師)みたいに、だ。」

「・不健康の元凶はクスリ ・健康を取り戻すには通院ではなく生活習慣の改善 ・医師に生活習慣病を治すことはできない」

「安心老後のためのワンストップサービスだ。老い支度や老親対策、さらには健康的なライフスタイルに資する情報提供や実践指導を馴染みの開業医が行うのである。」

本当に大事なことは薬を処方することではなく、患者に耳を傾け、生活習慣の改善や指導を行うこと。そして、患者の御用聞きとなり老後の相談窓口となる自費サービスをしてはどうかという提案を著者はしています。ここは賛否両論が大いにあるでしょう。

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