著者情報
柏崎幸一
行政書士で柏崎法務事務所の代表です。
主に医療機関を専門とした行政手続きを行う行政書士事務所です。
個人からの医療法人成り、解散個人成り、移転、相続対策などのサポートを行っています。
柏崎法務事務所
概要
本書は基本的には行政書士が税理士向けに作成した内容となっています。
しかし、医療機関側にも参考になる部分があり、税理士選びや行政手続きの際の大きなメリットを享受できる内容となっています。
例えば、本書では医療機関向けの専門性を持つ税理士が少ないこと、そのために医療機関が不利益を被っている現状を記しています。
つまり、一般の会社にはない医療機関独特の法制度等を本書で知っておくことができるのです。
医療機関独特の法制度等を知っておくことで、例え現在の顧問税理士が医療専門でなくても、現顧問税理士や社労士、行政書士に一言注意を伝えられるということができますし、一般の士業に丸投げでは危険だということを頭の片隅に置いておくことができ、将来のリスク回避に役立つでしょう。
また、顧問税理士や社労士、行政書士の選び方として役立つ情報も記されています。
士業は皆同じ仕事をするものだから安いところや有名なところ、ずっとお世話になっているところにお願いをすればよいと考えている院長が多いのが現実ですが、そうではありません。
医師も同じです。同じ分野でも専門医を持っている医師の方が給料が高い傾向にあるのと同じです。士業も同じように専門性が存在するということを理解しておきましょう。
医療機関では士業同士の連携が重要
持ち分ありの医療法人で、出資者が居る場合の相続の場面では返還請求がなされることがあったり、医師は大きな資産を追っていることが多くあります。そのため、医療法人には相続対策が必要となるため、行政書士による手続きと並行して税理士による税務対策が必要となります。
また、個人開業医から医療法人へと法人成する場面では、税理士、行政書士、社労士が連携して手続きを行わないと思わぬ被害を被る可能性がります。具体的には下に記します。
医療機関独特の法制度等
医療法人は原則医業しかできない
医療法人では原則医業しか営めません。そのため、資産運用のための不動産購入や専門性の近いエステなどは行いたくても行えません。
一方、個人開業医であればこれは可能です。ただ、医業以外を行うために医療法人の解散個人成りをしようとしても都道府県の承認が得られない場合もあるので医療法人化は要注意と言えます。
MS法人のメリットデメリット
メリット
医業以外に展開したいときにMS法人で行う、交際費の損金算入規制への対策、医師の所得分散による節税対策、事務長の出世コース対策などで利用できます。
デメリット
MS法人は株式会社などの一般法人と同様に課税売上となり、消費税の納税義務が生じます。医療法人の場合は保険診療は非課税売上となるため、シミュレートしましょう。
MS法人でよくあるスタッフの派遣による事業委託費について、10%の課税を考えたときには売り上げの10%以上のメリットがなければMS法人を作る意味は無いことになります。
医師国民健康保険(医師国保)
個人開業医が加入することのできる医師国民健康保険(医師国保)ですが、医師国保には一般的な健康保険よりも有利になりうる制度があります。
それは、医師国保は収入額にかかわらず一律で納付金額が設定されているといことです。
一般的には協会けんぽなどの社会保険となるのですがこちらは給与や賞与の額に応じて保険料が計算され、収入が増えるほど納付金額は上昇するのです。
医療法人化した場合でも医師国保を継続することができるのですが、手続きが必要となり、加入でいる期間が決められています。
法人化後にしばらくしてから医師国保に加入したいと思っても加入できません。
このような特別な制度を知らない税理士等の士業では、法人成り手続きの際に見落としが発生し、社会保険が高額となったためシミュレーション通りにお金が手元に残らないということが発生するのです。
ローカルルールの存在
医療法人の場合は都道府県のローカルルールの差が大きいということがあります。ある県では認められるが、ある県では認められないということが頻繁に起こります。
【本ブログ著者より一言】
事務長業務を行っていると行政手続きや行政へのお伺いをすることが多くあります。
都道府県への定款変更申請、医療法人成りの申請などです。
申請のタイミングが1年に1回しかなかったり、承認が下りるまでの期間は都道府県で大きく異なります。
特に最近は東京都は定款変更(分院開設や移転などで必要)だけで半年程度はかかると有名ですので、分院開設の時期設定は慎重に行いましょう。無駄な固定費が発生しかねません。
まとめと感想
医療専門の税理士が身近にいればよいですが、通常はそうではないことが想定されます。
その場合は、本書を読むことで予想されるトラブルを押さえておき、税理士に一言添えられるようになるなどの対策が出来ます。
また、税理士、社労士、行政書士の連携の重要さも理解することが出来るでしょう。
また、相続などの場面ではスポットで医療専門の税理士にお願いをするなどする対策を取ることでリスクが低減てできるでしょう。
他にも本書内には税理士の選び方に関する記述もあります。
通常の会社では行わないような、領収書の回収まで行ったり、ちょっとした事務や労務の相談(完全にプロフェッショナルでなくてもある程度理解でき、その後に専門家に取り次いだりする)が税理士は忙しい医師には重宝されます。
また、大手の税理士事務所では税理士ではない担当がつくことはありますが、税理士というプロフェッショナルが付き柔軟に対応できることから小さな税理士事務所の方が好まれることもありますし、実際にそうであると感じます。
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