【書評】『選ばれる病院になるための地域連携室運営の教科書』 小林 正和,須賀 一夫,田中 明美

【書評】『選ばれる病院になるための地域連携室運営の教科書』 小林 正和,須賀 一夫,田中 明美 マーケティング/集客
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著者情報

■小林正和

株式会社連携創造研究所 代表取締役
薬剤師で医療福祉連携士です。MRを経験後に、紹介や逆紹介患者を増やす仕組みづくりをサポートする株式会社連携創造研究所を創業しています。

■須賀 一夫

NHO渋川医療センター 地域医療連携室 医療福祉連携士

実例を記載しています。

■田中 明美

湯浅クリニック勤務 医療福祉連携士

実例を記載しています。

概要

本書は地域連携室をうまく作ることで病院経営を改善する具体的なメソッドについて記しています。

これまで何となく「窓口として地域連携室」を運営している病院に対してマーケティング視点の地域連携の手法を取り入れることで紹介患者や逆紹介患者が増える好循環を作っていきます。

さらに、本著者は3名ではありますが、そのうち2名は実際に地域連携室を担当している実践者による実例が記されています。このような実例は具体的で真似もしやすいため大いに参考になるでしょう。

紹介患者を増やしたいと思っている病院院長や管理職、地域連携室職員にとっては、何となくもやもやしながら行っている地域連携の仕事について再考し、具体的な一歩を進める指標となるという点で一読の価値があります。

病院では外来よりも入院や手術が重要

病院というのは街のクリニックではできないような専門的な医療や入院機能を持つというのが強みです。

ぱっと見で患者人数も大きく出やすく、忙しそうに見える外来診療に目が行きがちですが、同じマンパワーであれば病院売上に大きなインパクトを与えるのは入院や手術です。

入院や手術は単価が高く、街のクリニックでは対応できないという点から最も重視すべき点です。

よって、街のクリニックから患者の紹介を得ること、そして入院単価の下がらない日数で患者を回すことが大きな戦略となります。

そして、患者紹介を得て患者を回すために必要な具体的な手法については以下に記していきます。

地域連携室に必要なマーケティング視点

病院の地域連携室の役割として重要なことは地域と病院の窓口としてのつなぎ役になることです。

ですが、「地域と病院の窓口」という表現はあまりにも漠然としています。

そのため、多くの病院では何となく各所の調整や挨拶回りなどを行って、何年もずっと同じような動き方をしているのが現状です。同じ動き方をしていたら同じ結果しか得られないのは目に見えてはいるのですが・・・。

そこで著者は地域連携室にマーケティングの視点を取り入れる手法を提案しています。

まず、考えることは「選択と集中」です。地域連携室の限られたリソースでは、全ての場所に挨拶回りなどは行えません。よって優先順位を決め手取り組んでいきます。

優先順位を決めるためにはマーケティングの基本的なメソッドが役に立ちます。

とくに、ABC分析、3C分析、SWOT分析というマーケティング手法について触れられており、特にABC分析は優先順位を決めるうえで特に重要となります。

他にも医療機関への訪問の電話のスクリプトやそのタイミング、訪問時に話す内容なども具体的に記さているため地域医療連携室のスタッフはそのまま利用ができ実際の行動へのハードルが下がるでしょう。

ABC分析

パレートの法則(全体の80%の成果を、特定の20%の要素が⽣み出している)に基づいた手法です。

ビジネスにおいても売上全体の80%は特定の20%のグループが担っているものです。

この手法では売上高の割合で売上高の大きい群からABCとグループ分けします。通常はABC分析は80%の売り上げを担っているグループをA、次のグループをB、残りをCとしていきますが、著者の手法では医療機関の売上カテゴリの集約率が低いことを理由として、売上70%のグループをA、71~90%をB,91~100%をCというグループに分けてAを重点的に管理します。

例えば、Aグループの紹介元となる医療機関は紹介元医療機関全体の20%となります。Aグループの医療機関は売り上げの70%を得ているのでVIP顧客です。

VIP顧客には定期的な訪問活動や、特別な部協会やイベントへの招待、自院へのご意見をうかがうなどの対応を行う必要があります。

本書では次のようにグラフや図を用いて管理具体的に記されています。

ABC分析 地域医療連携室

『選ばれる病院になるための地域連携室運営の教科書』 小林 正和,須賀 一夫,田中 明美より引用

地域医療連携室をただの間接部門にしない

地域医療連携室は病院の中ではいわゆる間接部門(お金を直接産むわけでは無い部門)となるため、そう簡単には人を増やしてもらえません。

一方で病院にとっては患者を増やすことのできる大きな可能性を持っている部門でもあります。

地域連携室は上記のようなマーケティング手法で現状を見える化し、さらに活動した結果を病院の上層部に提示していくことの重要性を説いています。

実例紹介

本書の著者2名は実際に地域連携室の業務を行っているスタッフです。その2名からの具体的な報告が記されており、大いに参考になる内容となっています。

診療所向け広報紙の作成で自院を理解することができた

上で挙げたAグループやBグループの医療機関には自院のことを知ってもらうための活動を行っていきますが、医療機関向けの広報誌を作成することで認知を高めている病院があります。

ここでは「開業医向け広報誌」というものを作成しています。

開業医向け広報誌には自院の先生や科の特徴を記すことになるのですが、これを作る過程で自院の強みを文章化することができ、結果的にはスタッフ自身の病院の理解が進み、地域連携が促進されたと記されています。

開業医向けの広報誌だったのが、結果的に自院の強みを知るツールになったというのはとても興味深いことです。

「連携実務者が集まる会」で地域の医療の状況を見える化

地域医療連携をスムーズにするために「連携実務者が集まる会」というのを行っています。

この会では地域の病院に居る医師の状況として、科ごとの医師の勤務体制(常勤・非常勤)を見える化して一覧にしました。

さらにそこに地図を入れることで相応しい紹介先を見つけられるようにしています。

このようなことをすると、他院をライバル視してしまうかもしれません、そう思っていると自院の紹介件数は伸びません。他院にも仲間を増やして自院が受け入れられるものと受け入れられないものをしっかりと理解することが重要です。これにより相乗効果が生まれ結果的にはプラスに働きます。

自院と他院を知ることで、自院の強みが確立できるようになり、営業活動の確度も高くなり紹介件数は増えていきます。

【本ブログ著者より一言】

自院の特長を理解していないと、どのような患者が受け入れられるのかが明確にならず、ついついお断りを入れてしまったりすることは多いものです。

地域連携室のスタッフが自院の強みを理解することで、確度の高い営業活動ができ、地域で受け入れるべき相応しい患者を逃さないようになり、結果的には患者紹介は増えていくということです。

まとめと感想

自院の入院患者や救急患者を増やすためにとにかく営業にまわるというのはよくある話です。また、毎年同じ時期に同じ施設に同じ頻度で挨拶に行っているというところも多くあります。

しかし同じことをやっていては患者は増えることはありません。そこで著者はマーケティングの手法を取り入れて優先順位を付けた営業周りを提案しています。

また、営業周りにいくだけでは効果が薄くなりますので、必要な武器(訪問のタイミングや説明内容、紹介資料など)を具体的に示しています。

地域連携は「安心して紹介できる病院」に紹介をするものですが、それを決めているのは医師であり人間です。できるだけ明確に紹介先の状況が分かっていることが人間にとっての安心です。(ふわっと、もやもやしているものは不安ですよね?)

この安心を得ることが患者紹介のためには重要なことでしょう。

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