【書評】『200万円からはじめるクリニック開業 ーー開業初月から黒字化を目指す』石川 雅俊

書籍レビュー

著者情報

石川雅俊

まめクリニックグループ代表 医療法人社団ビーンズ 理事長

まめクリニックグループは本書内では8施設あるということです。

2024年時点では「前」代表かもしれません。下記ホームページには「まめクリニックグループ前代表・創業者 石川雅俊」という表記があります。2019年には医療法人ビーンズに理事長として就任しているとの表記があります。

まめクリニック(池袋//新宿/大宮)AGA治療可能 | 平日日中夜間(22時まで)土日祝の内科・総合診療
東京で内科・総合診療をお探しなら、池袋東口まめクリニック、新宿南口まめクリニック、大宮駅前まめクリニックにご相談ください。駅前にある当院では、平日夜間・土曜・日曜・祝日に、内科、循環器科、呼吸器科、消化器科、糖尿病内科、泌尿器科、性感染症科、アレルギー科、の診療をおこなっています。港区、新宿区、中央区、江東区、目黒区、...

ご挨拶 https://mame-clinic.jp/%E3%81%94%E6%8C%A8%E6%8B%B6

2005年筑波大学医学専門学群卒業。卒後臨床研修を経て、KPMGヘルスケアジャパン株式会社(元は監査法人系のコンサルティングファーム)。2014年より国際医療福祉大学MBA准教授、厚生労働省医政局総務課長補佐、ハーバード大学武見フェロー、神奈川県顧問、筑波大学客員准教授等を経て現職。東京医療保健大学特任教授を兼務。

2024年2月時点では日本維新の会所属の政治家でもあります。

概要

著者は多くの開業医がたどるキャリアとは異質なキャリアを歩んでいます。

一般企業でヘルスケア領域のコンサルティング、行政、そしてクリニックの開業にあたっているため、3者視点を持っているというのが著者の特徴でしょう。ゆえに、一般的な医師や、よくあるクリニック開業本とは異なる視点で医師のキャリアやクリニックの開業について示されているのが興味深いところです。

タイトルこそ「200万円からはじめるクリニック開業」と、かなり開業医の目を向けるような印象を受けますが、中身自体は開業医も含めた医師のキャリアや未来の医療の在り方について記しています。

もちろん200万円で開業するための具体的な方法についての記載もありますので、これはこれで必見です。

本書の「はじめに」には「新しい時代の「クリニック開業」」というタイトルが添えられています。

この「新しい」とは2点が挙げられるでしょう。1つはデジタルヘルス、もう1つは医療政策です。この2点を念頭に置いたうえでのクリニック経営について触れられているのが本書の特徴でしょう。

私が代表を務めるアズメド株式会社も「新しい医療」をテーマにクリニックやベンダーの支援を行っていますが、これに似たような感覚を受けますし、開業だけではなく未来の医療の在り方には大きく賛同できるものでありました。

医療政策とデジタルヘルスの動向

 本書では、医療政策やデジタルヘルスの最新の動向についても幅広く解説されています。これにより、これからの医療業界の方向性を理解するのに役立つでしょう。

医療費を抑制する方向に進んでいる日本において、日本の診療回数が他国に比べて圧倒的に多いという事実があり、今度どのような政策が進むのか。

また、オンライン診療やデータヘルスなど医療DXの推進が必要とされている現状など、医療業界についての新たな知識を得ることができますので、それを想定して上でのクリニック運営を行えるメリットがあります。

オンライン診療は単に診療がオンライン化することにとどまるのではなく、健康相談や薬剤配送などが統合的にサービス提供され、その先にはドラッグストアで販売されているヘルスケア商品までバリューチェーンが拡大されるということです。

また、ウェアラブル端末などのデバイスが進化することで、患者はクリニックに検査に来ずとも健康情報を医師に提供することができるようになります。アップルウォッチや血糖モニタリング機器などがそうです。さらにはマイナポータルと繋がる健康データからPHR(パーソナルヘルスレコード:個人の健康データ)を形成し、医師が診療で知りえなかった健康情報を知ることができるようになり、医療の質が上がることが想定されますし、これまでとは異なる新たな個別化医療が提供できるようになってくるということです。そしてその取り組みについても具体出来に上げられています。

医師のキャリアパス

セルメディケーションや医療AIが普及することで医師でなくてもカバーできる医療領域が増えていきます。これは開業医の減収リスクでもありますので、開業を目指す医師は念頭に入れる必要はあるでしょう。

「医師がいらなくなる時代も想定して、自分のキャリアを考える時代がやってきた」とも記されています。

医師は開業医や勤務医、専門医や総合医というくくりだけではなく経営、ビジネスなど、病院では得られないような知見を得ながら視野を広めていくことの重要性を示しています。とくに今はデジタルヘルスをはじめとしたヘルスケア領域のビジネスに進出する医師も増えてきていますので従来のくくりにとらわれないキャリアパスの選択可能性に触れています。

著者はダーウィンの言葉も記しています。「最も強いものが生き残るのではなく、最も賢いものが生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるのは、変化できるものである。」

開業のポイント

開業の目的と経営理念

本書では、開業の目的をしっかりと考えることの重要性が強調されています。自分が本当にやりたいことを見つけ、それを基に開業を選ぶパターンも紹介されています。これにより、開業を考えている医師は、自身の開業の目的と意義を明確にすることで、より成功に近づくことができます。

経営理念がないと患者さんにクリニックの特徴や院長の想いが伝わらなくなる、またスタッフの採用や継続勤務の上で組織への帰属意識を低下させる要因となると記されています。

開業における具体的ステップ

本気でクリニック開業を考えるなら、現勤務先を退職し、非常勤で診療所のアルバイトをしつつ開業準備や診療所経営のリアルについて学ぶことを勧めています。退職後半年から1年を目途に開業するのがスムーズということです。

また、開業準備中にすべきこととして、スケジュールや、事業計画、開業の時期、物件の選定、診療圏調査、銀行の融資、内装工事、医療機器や備品の購買、情報システム、採用、行政届出、マーケティング、コンサルタントの利用、個人情報、医療安全など具体的に必要なものについて記されているのでチェックリストとしても機能しそうです。

私が特に興味深いと思った5点のみ記します。

診療圏調査と医師偏在指標

診療圏調査は開業に携わるコンサルティング業者などが多くの場合行ってくれますが、無料の診療圏調査ツールなどで自分でもある程度できます。ただ診療圏調査には通勤者などが考量されていないので自分自身で人や車の流れを確認することは必須ということです。

また、厚生労働省が発表している医師偏在指標では2次医療圏の医師偏在指数を算出しています。例えば、同じ埼玉県の中で比べた場合、川越比企地域は上位ですが利根、北部、秩父というのは下位にとなっており、この指標も含めて開業に適した地域かどうかを判断する材料となるでしょう。

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000665196.pdf

テナント開業で具体的に注意すべきこと

水回りには配慮した方が良い、診察室の中にも手洗い場があると便利とう記載があります。

リハビリで物理療法の機器をたくさん置きたい場合は雑居ビルの電源では厳しい場合があるということです。

開院する広さとしては30-40坪が平均的ですが、精神科や皮膚科などでは20坪でも可能、内装費用としては1坪あたり30-40万円くらいなど具体的な記載もあり、参考になるでしょう。

また、開業場所として駅前かどうかという視点もあります。患者数だけでなくスタッフの採用の観点も重要で、駅から遠いところでは駅前に比べ通勤の手間がかかるためスタッフ確保の難度が上がるということです。これは確かにそうです、そのために時給を上げたり、他にもバスが必要になったりするとスタッフの交通費も大きくなりそうです。

採用のポイント

開業当初は院長はすべての面接を行うケースが多いと思いますが、医師は採用についての知見を有していません。ですので開業支援のコンサルタントの同席で客観的な意見を貰うことを勧めています。

また、著者はPCスキルの重要性について記しています。とくに事務スタッフは医療事務の経験は必ずしも必須ではなく、請求業務ができるスタッフは1人で十分と考えています。看護師についても電子カルテが使えるかどうかを重要視しています。

事務長の重要性

事務長は院長とスタッフの間の緩衝材になります。スタッフが院長に対して言いにくいことも事務長が吸い上げることで、ガス抜きになったり離職を未然に防ぐこともできるということです。当然、事務長は管理業務の一部を請け負うことで院長の負担を減らし院長はメインの業務に集中できるというメリットは言わずもがなで床。

また、分院展開を考えている場合も事務長のメリットがあるということです。本院に居る事務長を分院に配置転換することで分院の管理を強化することにも重要な役割を果たすということです。

マーケティング

患者が医療機関を選ぶときの情報源としてはインターネットが素も多くなっているということです。そのために、ホームページやリスティング広告の重要性について記しています。

ホームページは検索サイトで自院が表示されるために、SEO対策やMEO対策を行うこと、ホームページは作成だけでなく、こまめの記事追加や更新に力を入れることが大事であると記しています。ホームページは医療広告の規制も他の媒体よりも規制が少ないのはメリットです。

開業当初はホームページが公開されてから時間がたっていないこともあり検索にヒットしにくいためリスティング広告に予算を投下することをすすめています。患者数に合わせて予算を変えたりできるのはリスティング広告のメリットです。

また、病院検索サイトにも触れていますが、今のところ費用対効果の高い病院検索サイトはないと記されています。

さらに、インターネット上の口コミ対策についても触れています。患者さんは不快な思いをしてもその場では言わないことが多いですが、帰った後にインターネットで悪い口コミを入れることができます。誠実に書き込まれた悪評に対しては口コミに返信をすることでこちらの誠意を見せる必要があります。

200万円からはじめる開業戦略

著者は従来の開業方法に疑問を持っています。数千万円以上の立派なハコを作れば、待っていれば患者が来てくれ黒字になるという時代はもう終わったと考えているのです。そのため、まずは初期投資を小さく開業して、事業が安定してきたら人為にゃ設備を充実させたり、拠点を増やしたりというステップバイステップで規模拡大をする戦略を勧めています。

著者は次のようにしるしています・。「まめクリニックの開業戦略は初期費用200万円で「小さく生んで大きく育てる」、これが基本となります。」

また、初期費用についてはかなり具体的に内装代は100万円、月額ランニングコストは家賃30万円、変動費としての検査費・医薬品日は・・・などと具体的に記されているのでとても参考になると思います。これらの施策を行うことで1日15人くらいの患者数で黒字化ができるモデルとしているようです。これには私も驚きです。

都心の駅近でウェブマーケティング集患

著者のクリニックは平日忙しいビジネスパーソンや土日に調子が悪くなった人をターゲットとしています。

よって乗降客数の多いターミナル駅を中心に開業しています。ほぼ全ての拠点がマクドナルドやスターバックスの近隣にあるということです。

マクドナルドやスターバックスは自社で専門のマーケティング部門をもちその調査を経たうえで開業をしています。飲食店の経営の本でも読んだのですが、マクドナルドがあるということは集客がしやすい立地というお墨付きとも言われているのです。

後にも述べますがこの立地はアルバイトの医師を確保できるメリットもあるということです。

ビジネスパーソンが医療機関を探す手段はもっぱらインターネットですので先に上げたリスティング広告やホームページのSEO・MEO対策で潜在患者にリーチし集患するという施策を行っていると記されています。

競合とは異なる営業時間

著者のクリニックでは忙しいビジネスパーソンを主要な患者としてとらえています。そのため、平日昼間だけではなく平日夜間や土日にも営業をしています。競合が居ないというメリットに加えビジネスパーソンが「継続して通院しやすい」クリニックとなることで患者数を伸ばします。

具体的には土曜は13-18時、日祝日は10-18時、平日は18-22時の夜間診療も行っているということです。

これらの時間帯は非常勤アルバイト医師の確保にも役立つというとです。大学病院に勤務している医師はアルバイトをしないとやっていけない医師も多く、メインの病院勤務の終わった時間や休日は医師のアルバイトの需要が高まるということです。

WEB予約とWEB問診で待ち時間を少なくする

著者のクリニックでは事前にWEB予約とWEB問診を行っています。ホームページを実際に除いてみたところLINEで行っているようです。

患者さんにクリニックに来てもらってから問診をしていてはその分滞在時間が増えますが、事前WEB問診にすることで問診の時間やを削ることができるということです。

また、医師含めスタッフは問診の転記の時間、診察の際に聞き直すことを省けるので診療時間だけでなく診療が効率的に回るため待ち時間が短縮されていくとのことです。

これにより患者側の待ち時間は平均10分となっているようです。

面積と装備を必要最小限にする

ターミナル駅前は通常は高額な賃料となるのですが、著者のクリニックでは面積を小さくすることで家賃を抑えています。具体的には、坪単価2万円/月で20坪程度で40万円/月程度で運営可能ということです。家賃を抑えるために1階ではなく2階以上に店舗を構えるようです。

また、機器は心電図のみという徹底ぶりです。

複業スタッフを中心に現場運営する

平日日中にメインの仕事があるスタッフがメインの仕事以外で空いた時間に著者クリニックで働いてもらえるようになっているということです。つまり非常勤のアルバイトが中心で業務を回しているということになります。著者のクリニックの営業時間や立地は医師だけでなく、看護師や事務職にも都合が良いようです。

時間帯による患者数の増減に合わせスタッフを配置し、人件費の無駄を減らしているということです。

もちろん社会保険などの費用も削減できるでしょう。

また、非常勤スタッフがメインになると起こりがちなミスコミュニケーションについても手を打っており、ビジネスチャットなどの非同期型コミュニケーションをうまく使っているということです。

また、非対面業務についてはリモートワークを推奨しているようです。これは場所の問題もあるのでしょう。

まとめと感想

クリニック経営の本では一般的なクリニックを作り上げたうえで、院長の心配事トップである集患や人材に関することに焦点が当てられがちですが、当書籍はクリニックの作り方のデザイン(見方)から変わったアプローチで取り組んでいます。

今後の人口動態や医療DXにより医療の在りかたが変わっていくであろうこと、そして外来受診者が減少していくことを念頭に入れています。ゆえに、開業する際にはリスクを低くするために「小さく開業する」するということ、元来はクリニックでは行っていなかったようなサービス(オンライン診療やウェアラブル端末など遠隔での医療や自費診療など)を取り入れることで、スマートでかつコンビニエンスなクリニックの姿を提唱し実践している。

このような発想はやはり著者のように行政、ヘルスケアコンサルティング、医師という多様な視点を持つからなせるであろうことです。

書籍タイトルの「200万円で開業」が目立ちますが、著者のクリニック経営戦略は都心のターミナル駅などに限られる戦略のため、全てのクリニックの経営に当てはまるわけではありませんが、今後の医療DXを見据えた経営や黒字を出すための考え方というのはどのクリニックにも共通と思います。

これから開業する医師にも、キャリアに悩む医師にも一度目を通すことがおすすする一冊です。

また、当社の目指す新しい医療のカタチにも近いものがあり、とても共感の出来る内容でした。

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