【書評】『開業医やってみたけどダメでした 勤務医から開業医になっていまはフリーターです』大平まさと

書籍レビュー

著者情報

大友まさと

本文中には日航ジャンボ機の事故1985年の時点で大学3年生という表記があるため、2023年現在では約60才中盤くらいかと推察されます。

次のような経歴のようです。

医局→医療グループ病院(徳洲会グループと思われる)→中規模病院→前述医療グループのクリニックの雇われ院長→独立開業 現在はフリーランスの医師

・医局→医療グループ病院(徳洲会グループと思われる)

将来の独立を考えたうえで医師のスキル磨きのために転職

・医療グループ病院(徳洲会グループと思われる)→中規模病院

独立するための資金のため転職

・中規模病院→前述医療グループのクリニックの雇われ院長

事務方が強く事務部長と意見が合わず決裂 「プライドの高い医師は頭を下げてまで居座らなくても医療スキルさえあればどこでもいける。臨床以外の道もあるがすべては個人スキルに尽きる」という分が印象的。かねてより連絡をとりあっていた元々の医療グループの人からの案内で雇われ院長となる。

概要

この本はタイトルが印象的です。よくあるクリニック開業の本に関してはいわゆる成功体験が書かれることが多いのですが、著者は失敗をしています。ですので失敗から何を学ぶのかが多くの方にとっては気になる部分となるでしょう。

また、ご自身のクリニックを閉業後はフリーランスの医師として活躍されているようですので、医師としてのキャリアや人生について参考になる点が見られます。とくに、開業するか迷っている医師には大いに参考になるかもしれません。

著書全体を通して、実体験に基づき非常に赤裸々に語られているのが印象で、具体的に行った施策や具体的な数字なども記載が見られます。さらに筆者の感情や心境の状態についても見て取れるため、とても面白く読み進められるものでした。

世間一般的には医師という職業は最高峰で尊敬され地位もあり富も得られる職業ではありますが、現実的に幸福になれるということとは別の話なのかもしれません。世間一般から見るお医者さんの見え方も変わるような内容と思います。

開業を前提としたキャリアの蓄積

筆者は開業を前提として医師のキャリアを築いています。

まず診療科として麻酔科を選んだようです。全身麻酔ができるようになれば 呼吸管理や循環管理など幅広く知ることができ、外科や内科や在宅医療を行ううえでも救急時の対応をする上でも有利と考えたということです。

 「末梢の点滴ルート確保 はもちろんIVHや気管内挿管などはドクタースキルとして是が非でも身につけておきたかった。」というかなり具体的な表記もあります。

そして開業に向けた準備を前提に医師という仕事を行っていくという点は参考になりそうです。

次のような表記がそれを物語っています。

「腹部エコー検査や心臓超音波エコー検査には達人が~頭をさげて暇があれば教えてもらいました。」

「レントゲン技師さんにも~セッティングのやり方から教わりました。 ~みんな師匠です。まずは挨拶をキチンとして頭をさげてノートと録音テープ 持参でゼロから学ばせて頂きました。」

「医療事務の流れはノート持参でいちから教わりました~レジ会計~レセプト作成も学ばせてもらった。いざとなれば自分でもできるようにだ。」

開業医としての理想と現実

開業医になることへの憧れとその厳しい現実との対比は、医師としてのキャリアどう選択していくかの重要な点を提示してくれています。

「実際にやってみれば分かります。最善の医療を提供すれば~利益がでない~経営~と臨床医では求められるスキルが異なる~」

という表現が医師と経営者の狭間でもがいてたことを良く表す表現でした。

開業にあたっての工夫

筆者は40代で開業しますが、開業の際の場所の選び方、マーケットの大きさ、利便性などは具体的に行ったことが記載されています。

不動産屋の選び方、市役所や実際に現場での聞き込み調査までかなり地道なことをご自分でやられていたようです。現在は医療モールなどに開業することが多くなっていますが、その医療モール単体での集客力予想などを鵜吞みにせず、自ら足を運び、目で見て、聞きこんで、その地域の人たちがどのように動いているのかの情報を得る、そして自ら経験するというのは大事なことでしょう。一度クリニックをその地で開業させてしまうと後戻りするのは難しいですから。

また、ショッピングセンターなどへの開業は最近は多いですが、「こういうところは避けた方が良いだろう」とい自論も記されており参考になるでしょう。

開業失敗からの学び

筆者が開業に失敗した経験から得られる教訓は多く、読者が同じ過ちを避けるのに役立つでしょう。こうのような書籍では成功事例ばかりが取り上げられがちですが、失敗の反省から学ぶことは開業医にとって非常に貴重と思われます。

開業前に勤務していた医療機関から相当人数の来院を見込んでいたようですが、結果的には半分も来てはもらえなかったという現実がありました。

コンビニ医院の戦略をとり皮膚科や耳鼻科などの診療科、医師を増やす戦略をとるも、当たったり当たらなかったりで苦労もされていますが、診療科や曜日、地域の組みあわせによりマーケット的によく当たるもの当たらないものも発見しており、このようなものは実践したことで初めてわかる貴重な経験でしょう。

医療経営の本では良く取り上げられるヒトに関する考えも随所に記されております。採用やスタッフ教育の面では具体的な表記もあり苦労されたことが良く分かります。マニュアル作りや権限委譲の重要性について著者の考え方も記され「確かにな」と思われることも多いでしょう。

自己実現の問いかけ

著書内には筆者が医学部を目指した理由から始まり、中学生に遡るところから記述があります。

医師になりたくてなったわけではなかったという過去を持つという背景が書かれており、親には「医師になれば豊かで安定した生活が未来永劫できると信じ込まされた」という一文が印象的です。

医学部を目指す高校生にも一読の価値ありと思われます。

医師になることを強いられた人の進路について考えさせられる点で、開業のみならず一人の人間としての生き方についても考える契機を与えてくれるでしょう。

まとめ

本書は開業を考える医師に対して、実際の体験に基づく具体的かつ価値ある視点を提供しています。成功事例のみを追い求めるのではなく、失敗から学び、キャリアと自己実現について深く考える機会を与える一冊でしょう。開業医としての道を歩む上で、経営の面やクリニック経営が抱えるリスク、さらには人生をどのようにデザインするかを考慮した、豊かな内容で構成されていると言えるでしょう。

最後に一つだけ。誤字やひらがな表記が多いのが若干気になります。

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