【書評】『医療経営の教科書 事業承継・M&A編』 医療経営研究会

書籍レビュー

著者情報

次のように記されています。

医療経営新聞.com 編集部内の専門家集団として発足した医療経営研究会にて、執筆及び編集が行われています。

医療経営研究会メンバー

(敬称略 順不同)

執筆陣

・石橋治朗 石橋税務会計事務所 代表 税理士

・関口陽平 税理士

・鈴木 巌 EYソリューションズ株式会社 マネージャー

・大崎泰寛 ビジョナリーキャッシュパートナー 税理士

・大川原基剛 株式会社 後継者の学校 代表取締役 中小企業診断士

・岡部眞明 (一社)グローカルコミュニケーションセンター理事長 中小企業診断士 行政書士 MBA

・佐藤広一 エイチアールプラス社会保険労務士法人 代表社員 社会保険労務士

・柏崎幸一 柏崎幸一 法務事務所 代表 行政書士

・三山朋子 日本メディカルメンター協会 代表

・三山清 株式会社アントレプレナーセンター

編集

・児玉秀人 医療経営新聞.com 編集長

企画主宰

・深山健彦 医療経営新聞.com

※医療経営新聞.comのWEBサイトのURLがありましたが、先には飛べずでしたのでここちらでは割愛します。Facebookページはありました。

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概要

本書はM&Aに関わる医師だけでなく、経営に関わる医師とって共通して必要な「出口戦略を考えた経営意識」について記されています。

本書の前書き最後には次のような記載があります。

「「自分の代で終わり」このようにお考えの経営者の方は、本書をお読みになりご一考いただければ幸いです。」

この文章が本書を表していると言えます。

終わりを考えたうえで、終わる前にはどうしておくべきか、どのように終わらせればメリットがあるのかに触れているのが本書です。

新規開業する先生、親の医院を相続する先生、事業承継をする先生、事業を引き継いでもらう先生、まさに開業真っ只中、開業を検討している先生など色々といらっしゃいますが、出口戦略を考えたうえで医院経営を行っている医師がどれくらいいるでしょうか?

事業の出口戦略を考えるのはビジネスの世界では当たり前ですが、医院経営においてはこの意識の欠如が激しいと考えます。

自分が急に病にとれるかもしれない、引退後はどうすれば良いかなど考えることはあるかもしれませんが、例えば医院の売却という出口戦略を明確に持っておくことでその心配への対応策が打てるようになります。

本書では出口戦略を描くにあたり必要な考え方やヒト、モノ、カネに関する内容について広く記されています。

特にスタッフ対応や書類整理、そしてカネに関するものとして理事長退職金や退職金制度、生命保険、出資持分のことなど税制面を考慮したスキームが具体的に触れられています。

また、医院の承継に当たり売る側と買う側に関する具体的な知見について記されています。

親から子に相続する場合の注意点についても記されています。

本書はM&Aに関わる医師だけでなく、全ての医師に共通の医師のキャリアパスから医院経営、そして医療をどう繋いでいくかについての情報が記されています。

親から子への相続

親が描いた事業戦略を子が引き継ぐと子は受け身になってしまうことが懸念されます。

そのため後継者の子は自らが新規開業するかのように主体的に現状分析を行い、診療圏分析や事業計画の策定などを行うべきだと記されています。

スタッフへ伝える際の注意について次のように記されています。

「くれぐれも「息子(娘)を頼む」とじゃ言わないようにしてください。これは「先代に頼まれたからという後継者との確執を予防するためにとても重要なことです。」

このようなことは親は言ってしまいそうなのですが、子やスタッフの主体性を尊重するためにも注意すべき点でしょう。

医院譲渡

とくに譲渡金額の決定については具体的に記されているため勉強になります。

特に営業権、不動産や医療機器などを分けながら算出していく点、診療報酬の●か月分などの診療報酬基準や、純資産基準、キャッシュフロー基準など様々な金額設定方法があり参考になるかと思います。

また、譲り受ける後継者の気持ちを考えると「経営が見える」ことは非常に重要と記してあります。

そのために必要なのはお金のことだけでなく環境整備も重要です。環境整備に当たり次のような記述があります。

「長年の経営の中で物理的に使わないもの、必要ないのにとってある書類、書籍など、要らないものを徹底的に処分します。」

「書類を整備してファイリングします。・・・いつでも取り出せるように整理することを徹底してください。」

医院譲渡などの出口戦略を考えていない場合、公私混同が起こりやすくなり、公私混同のある医院は後継者候補からも敬遠されますので、しっかりと環境整備等出口戦略も考るべきでしょう。

事業承継をサポートする制度

本書には事業承継に係るサポートや補助金などの情報がまとまられていますので、知っておくことで思わぬ得をすることができるでしょう。

例えば、事業承継補助金 補助上限500万円 なんてものは知らないと使えません。

まとめ

本書では出口戦略を考えた上の経営について、譲る側、引き継ぐ側の両面から知っておくべきことについてまとめています。

私もクリニックの承継に対しては、買う側も売る側も経験してきていますが、とくに買う側になるといくら財務諸表や数字の分かる資料が出てきても「何か不都合なことが隠れているのではないか?」と勘ぐってしまうことがありました。

とくに個人と法人を混同しているように見えるような法人に関してはこの疑念は強くなります。

よって、リスクを考え買収の金額も下げざるを得なくなるのです。

健全経営をしていても健全に見えなくなってしまい評価額を下げてしまうというのはもったいないことです。

本書内では次のような分がありますが、このような経営が出来ていくことが全ての経営者にとって一番良いことなのだと考えます。

「・・・事業承継を前提として経営を行うとどうなるでしょう。  より高額で買い取りたいと思えるように、経営は透明性を持って行われます。何をするにも、比較検討のプロセスを記録するなどして「わかりやすい経営」になっていきます。その結果、スタッフもやるべきことが明確になり、目標意識を持ちやすい土壌が出来上がります。  それは強い経営を生み、強い財務体質になっていき、内部留保(貯蓄)も出来ていきます。再投資も可能ですし、勇退時の資金に充てることも出来ます。  つまり、経営の可能性が拡がる「美しい経営」につながるのではないでしょうか。

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