著者情報
鈴木恵子
おおるり眼科クリニック事務長。おおるりクリニックは著者夫が院長を務めるクリニックです。著者自身には看護師や医療事務などの医療専門職の経験があるという表記はなく、専業主婦から新米の事務長として開業から手伝うことになったということです。
静岡県島田市のクリニック、2005年に開業との表記があります。
ホームページを拝見すると、院長は埼玉県の大学病院で眼科の専門医を取得後、静岡県の病院で勤務、その後静岡県島田市で開業をされています。開業前に在籍していた病院からは20kmくらいの距離があるので、在籍していた病院から来てくれる患者さんの人数はあまり想定には入れていなかったものと思われ、いわゆる落下傘式の開業に近いのかなと思われます。
概要
まずはじめに、筆者は地方(静岡県島田市 人口9万人台 高齢化率30%程度)で落下傘開業したクリニックの事例を挙げていることに注意が必要です。都心部ですと高齢化率は20%程度で、地域コミュニティの在り方も大きく異なるためマーケティング手法が異なる部分はありますが参考になる部分は多くあるかと思います。
オンラインのマーケティング方法を中心にしつつオフライン(看板や紙面など)を融合させることで、より効果の高い広告からマーケティング、ブランディングへと昇華させていく手法ついて述べられています。
実際に著者ご自身のクリニックで行っていることのイラストや写真も入れつつ具体的に記してあるのでイメージもしやすく参考にしやすい内容となっています。
本書は集患やマーケティング、ブランディングに関することに主眼を置いてはいますが、その土台となるクリニック・医院の理念(ビジョンやミッション)の重要性にも触れています。理念等の構築については同著者の別著書で下記のものが参考になるでしょう。
【書評】医師の妻がノウハウ0から人気クリニックを作り上げた業界の常識にとらわれない経営
本書ではクリニックのホームページの重要性を示しておりホームページは作っただけでは終わりではなく、情報発信の道具として活用し、データを分析し改善していくことの重要性を記しています。
また、集患対策において、患者が来ない原因の突き止め方として、認知不足にあるのか訴求不足なのかで対策方法が変わることを示しています。あなたのクリニックが知られていないのか、知られているけど行きたいとまでは思わないのかは対策が全く異なると記されています。
そして、人の購買プロセスにおけるマーケティングのAISAS(アイサス)等についても述べられ、そこに対し実際にどのようなことを行っているのかや患者サイドの視点も記されていますので、理論から実践までが身に付く内容でしょう。
A:Attention(注意・認知)商品やサービスを認知する
I:Interest(関心)商品やサービスに興味を持つ
S:Search(検索)商品やサービスを調べる・比較する
A:Action(行動)商品やサービスを購入する
S:Share(共有)購入した体験や評価を共有する
ホームページを中心とした集患導線
著者はホームページを根幹にブログ、SNS、看板、情報誌などから集患をしてくることが重要と述べています。
なぜならば、ホームページは看板や紙とは異なり面積の制限がなく情報を豊富に記載することができるからです。
またホームページは情報をストックしていくことができるため、ストック情報を患者さんが見たり、必要に応じで再利用することもできます。
下記に記すブログ、SNS、Googleビジネスプロフィール、看板、情報誌、口コミなどは患者さんの「認知」の入り口になりますが最終的にはホームページにたどり着いてもらうためのものということです。
ホームページ
まずはホームページを作ることあるいはホームページがあることが大事なのですが、ホームページにたどり着いてもらうことの重要性を示しています。
患者さんが認知をしていないクリニックを探す場合は、そのクリニックホームページも知らないのは当然なので普通はインターネット検索を使用します。つまり、まずはじめに「インターネット検索で見つけてもらう」という作業を患者さんが行います。「インターネット検索で見つけてもらう」ためにはGoogeなどの検索エンジンへの対策が重要になります。その対策をSEOといいます。
SEO対策がうまくいくと検索結果の上位に表示されるようになるのです。上位に表示されるとクリックしてもらいやすくなります。
著者の言葉を借りるとSEO対策は極論は「読者にとって優しい、「読者ファースト」のホームページを作ることが、SEOの根幹であることです。」となります。
SEO対策はWEBマーケティングの1領域ではありますが大企業が専門の部署を置いて対策をするくらいの専門性や重要性があることです。
本気でSEO対策を追求することはクリニック単位で考えるのは難しいことですので次のようなクリニックでもできる具体的な対策を施してい行けばうまくいきますよと示してくれています。
ホームページに入れるべき内容
ホームページに記載すべき内容について具体的に挙げられてていますのでこれからホームページを作成する医師にとっても今ホームページを持っている方にも参考になる内容でしょう。
クリニック・医院の基本情報や診療情報、初診や予約の案内、よくある質問、疾患と治療に関する情報など、ここでは割愛しますが具体的に記すべき項目が自院のホームページの写真とともにを例に記してくれています。
また、質問ページは自分たちで編集できる方が良いなど、不安に思っている患者さんの目線などを考慮したアドバイスもあります。
信頼度の高いサイトからの被リンク獲得
Google検索は被リンク(外部のサイトにあなたのクリニックのホームページへのリンクをURLを貼ってもらう)によっても検索結果に影響を与えています。
医師会や関連業者、病院まとめサイトなどからの被リンク獲得を勧めています。病院まとめサイトは具体的なサービス名も列挙されているので参考になるでしょう。
MEO対策(Googleビジネスプロフィール)
MEOとはマップ最適化のことです。またGoogleビジネスプロフィール(旧:Googleマイビジネス)とは、主にGoogleマップに自院情報を掲載できるまさにビジネスプロフィールを入れるところです。
先にSEO対策について上位の検索順位に入ることの重要性を述べましたが、Googleマップでも順位という概念があります。
また、Google検索時にはローカル検索機能といって自動的に近くのお店等をレコメンドするようになっていますが、その際にGoogleマップの情報が上位に表示されるようになっています。
著者は例として東京駅の近くのカフェやレストランを探すときにどのように順位表示されるのかを画像を使用して解説していますのでとても理解しやすいと思います。同様に例えば銀座近くでクリニックを探している人には銀座近くのクリニックが検索時にレコメンドされるのです。
そしてMEO対策にはGoogleビジネスプロフィールの入力が重要でありSEO対策にもなりうるということに触れています。
ブログの活用
後に記すSNSとの違いについて医療ではブログの方が患者獲得に強く働くと著者は次のように記しています。
「近年は・・・SNSによる情報検索がトレンドとなっている・・・。しかし、病気などの深刻な問題に関する検索はGoogle検索が主流です。・・・例えば目の充血が引かない、体のだるさが取れないなどと言った健康状態の異常を感じた際の情報収集に、SNSを利用するでしょうか。・・・」
また、ブログは先にも触れたローカル検索が適用されるためより近くて来院に繋がりやすい人に検索が表示されやすくなることに繋がるということです。これらはSNSにはない大きなメリットということです。
さらにブログが検索にヒットしやすくなるようにブログの記事構成についても、1.病気の情報 2.病気の説明・・・・というふうに具体的な記載がされていますのでどのように記事を作ったらよいか分からない方はそのまま真似していけば、実践的なブログができるので参考になるでしょう。
最終的にはブログをきっかけにホームページに誘導するというがが重要なことです。
SNSの活用
著者はSNSを集患に利用するにあたりその目的を明確化することの重要性を示してます。集患と一言で言っても、新規患者の獲得、既存患者のリピート、良い人材を集めて口コミアップ、知名度アップなどどのように集患に繋げたいのかを明確にする必要があるということです。
著者がお勧めしているのは既存患者のリピートを目的として使用することです。
理由としてはSNSの特性として、双方向のコミュニケーションができることや、ゆるいつながりが持てることを挙げています。
そしてリピーターになってもらうために具体的にどのように使うのかについて示しています。
Facebook、X(旧Twitter)、Instagram、LINEについてそれぞれの特性をまとめ、著者クリニックでの使用方法を具体的に示していますので参考になるでしょう。
そして大事なことはSNSからホームページにの方に来てもらえるような導線を作ることであると述べています。
口コミの重要性
人づての口コミもそうですが、今ではインターネット上に多くの口コミが書かれるようになりました。
とくに先に上げたGoogleビジネスプロフィールに登録をしてるとGoogleマップの口コミに返信ができるため口コミの獲得や悪い口コミの改善に役立つと著者は記しています。
また、一般的に顧客を獲得するためには新規の顧客はリピーターの5倍のコストがかかるということを示し、リピーターの重要性とリピーターの口コミが、新規の患者獲得につながるということを記しています。
著書内でも「患者さんの口コミが一番の広告!」と記されています。
看板や紙面などのオフライン広告
オフライン広告とオンライン広告のクロスメディア戦略
著者は今ではマーケティングの主戦場はインターネットに移ってはいるものの、オンラインと融合することで価値は出てくると記しています。その方法について以下のような方法を挙げています。
看板
元々は認知拡大やナビゲーションとしての位置づけはあったがその効果は現在は薄れているようです。なぜならば情報はインターネットで検索できますし、場所はスマホやカーナビで案内してもらえます。
ですが、「自院のホームページの入り口」となることで新たな役割を果たすということです。つまり、看板にURL情報を組み込んだQRコードや、「●●内科で検索」のようなものを入れ込むことでホームページへ誘導するということです。
そして大事なことは効果予測を立てて検証し常に改善を繰り返すということです。例えば、初診問診票に「当院をどこで知ったか?」という質問を作ったり、先に上げたQRコードのURLを効果分析用のURLとしておき、どの看板からどのくらいアクセスが来ているのかを調べるということです。これはGoogleアナリティクスという分析ツールを使用すればできることであると記されています。
このようにすることで効果の薄い看板は撤去するなど、看板の効果を最適化していく努力をしなければならないとのことです。
紙面広告
紙面広告といっても、新聞や雑誌、チラシやタウンページなど色々とありますが、著者は「地域誌への広告出稿」を勧めています。
これは一般的な診療圏となる半径10km程度の情報拡散をする上でのコストパフォーマンス、地域からの好感度上昇が期待しやすいということです。新聞や雑誌では広域に宣伝は出来ますがそのぶんコストが莫大となるためコストパフォーマンス面で地域誌に軍配が上がるようです。
特に地域イベントの協賛広告や地域の医療マップ、地域電話帳には地域貢献も含めて積極的に定額でも継続して出稿をすることで、地域から信頼感も得られるということです。
もちろん看板と同様にホームページ誘導用のQRコードも欠かせません。
患者教育からブランディングへ
患者教育は一つのマーケティング戦略であると同時にクリニックの考え方や方針を伝えるために重要なものとなります。これは疾患の教育だけでなくクリニックの理念の教育も含まれまるということです。
著者のクリニックは「安全な医療」を理念に掲げていますが、次のように患者教育の例を挙げています。
目の充血した患者には通常の待合とは別席に案内するようです。これは感染対策なのですが、病気の知識やクリニックの方針を知らない患者さんは「差別をされた」という認識を持つ場合があるようです。このようなことでトラブルにならないようクリニックの「安全な医療」という理念に照らし合わせ専用のチラシを作成しているようです。
クリニックの考え方や方針を理解してもらい、かえってクリニック自体の信頼が高まりリピートに繋がるのです。
そして、このような取り組みは他院との差別化にもなりブランドとなるのです。このブランド化(ブランディング)により経営力は安定し適切の投資を行っていくことができ理想とする医療に近づくことができると示しています。
まとめと感想
現在ではクリニックがホームページを持つことは当たり前となっていますが、ホームページはただの看板ではなく集患の根幹とすべきことは大いに同意できることです。アナログ媒体では時間やスペースの都合で説明できないこともホームページであればいくらでも掲載ができます。患者さんが知りたいであろうコンテンツを充実させることで、不安を抱える患者さんにとっては「クリニックの中が見える」ことは大いなる来院動機となります。
また、デジタルならではの「効果の測定がしやすい」というのは私には大きなポイントであると考えています。電柱や駅に看板を出しているクリニックや病院は多くありますが効果が出ているのか疑問なものも多くあります。よって初診アンケートのような効果測定は大事になりますが、アンケートは適当に記す方も多く正確性に欠けるでしょう。ホームページにはGoogleアナリティクスなどの解析ツール使うことで全てが数字として出てきます。この数字は次の手を考えるのに大いに役立ちます。
初診の患者さんにはインターネット検索(SEO)、ブログ(検索でヒットするコンテンツやローカル検索)、マップ(MEO,ローカル検索)、WEB広告(検索結果で最上位)、看板や紙面広告のQRコードから誘導されホームページにたどり着いてもらう。リピーターとはSNSでゆるい繋がりを作り口コミを担ってもらう、その口コミが新たな患者さんの獲得に繋がります。「自分がクリニックを選ぶときはどうするか?」を考えると確かに検索→口コミというのを無意識にやっていると思います。
多くの開業医は開業時に閑古鳥となる院内を見て大きなストレスを感じます。本書はできるだけ閑古鳥の期間を短縮し、集患ができるような具体的手法について述べています。「やらなきゃいけないことは何となく分かっているんだけど具体的には明示しにくい」という医師にはそれが見える化されているので参考になることと思います。
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