【書評】『超アナログ眼科医院のクリニックDX』鈴木恵子

ICT/DX
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著者情報

鈴木恵子

おおるり眼科クリニック事務長です。おおるり眼科クリニックは著者夫が院長を務めるクリニックです。著者自身には看護師や医療事務などの医療専門職の経験があるという表記はなく、専業主婦から新米の事務長として開業から手伝っているようです。

当ブログでは他にも同著者の書籍についてもレビューしております。

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概要

本書は専用システムや機器が多く完全電子化の難しい眼科クリニックでの完全電子化を果たしたクリニックの事例をもって、電子カルテ導入を成功させるためにはどうすればよいかという視点で記されています。

著者が事務長を務めるクリニックでは完全電子化までに7年の期間を費やしたようですが、電子カルテ以外にも様々なシステムが存在する医療現場でどのように電子化を進めていったかのノウハウが記されています。

最終的にはクリニックの理念やビジョンが重要なことにはなりますが、そのあたりまでしっかりと触れているのは、『医師の妻がノウハウ0から人気クリニックを作り上げた業界の常識にとらわれない経営』を執筆されているだけのことはあるなと感じました。

電子化プロジェクトを進めるために重要なこと

目的を明確にする

クリニックの理念やビジョンから下ろしていくこと、また、導入目的(残業時間が減ればプライべーが充実する、持続的な運営のために働きやすい職場を作るなど)を明確にし、これを繰り返し伝えることが重要になります。

著者のクリニックでは次のようなことを伝えていたと記載があります。

・新規クリニックはデジタルを標準装備しているため、自分達も技術のアップデートが必要

・常に新しい情報

「なぜ電子カルテを導入する必要があるのか」どんなクリニックを目指しているのか」といったように、あるべき姿・目指すゴールを最初に掲げるようにしましょう。 当院の場合は具体的に次のようなメッセージをスタッフに発信していました。

・地域1番のクリニックであり続けるためには、スマートフォンベースの発想で仕事をすやトレンドに対してアンテナを高く張り、現状に満足しない。 ポイントは、何度も繰り返し伝えることで「想い」を浸透させることです。

鈴木恵子 超アナログ眼科医院のクリニックDX より引用

業務を可視化する

院長とスタッフでは視座、視点が異なります。それゆえに業務を客観的に可視化する必要があります。

そして可視化された業務を電子化していくということになります。逆に、可視化されていない業務は電子化によってどうなるかが分からず、オペレーションの混乱を招きます。

著者クリニックでは外部のコンサルティング会社に委託し、オペレーション構築を行っていっているようですし、活用することを勧めています。

現場スタッフからの発信が重要

システム導入が先行するケースがよくありますが、重要なのは現場課題を解決するためのシステム導入であるということです。システム導入は課題解決の手段の一つでしかないため、スタッフの意見聞き最適な手段を選ぶようにしましょう

一方で著者はスタッフの意見は参考に留めるようにするべきと記しています。

これは最終的な判断は経営者であり、その判断はクリニックの経営計画に基づいて合理的に判断されるべきというスタンスであるためです。

【当ブログ著者より一言】

とくに眼科クリニックでは扱う機器やそれに伴うシステムも多くなるために「機能面」で完全電子化のハードルが高くなります。

これらのシステムと基幹システムである電子カルテシステムを連携させ、それに応じたオペレーション構築には多くの時間とお金をかけています。

完全電子化しているクリニックというのはほんの握りですので素晴らしいことですし、大いに参考になります。7年かかったというのもうなずけます。

電子化で経営改善ができる

診療スピードアップによる売上増、スタッフ残業時間の減少などが分かりやすく表れます。著者のクリニックでは年間コストが280万円減少したということです。

また、診療の質が向上し、患者満足度が向上、患者数が増えていくことに繋がっています。

スタッフ教育

ITリテラシーの差

電子カルテ導入に当たり、人によって視座や視点が異なるのと同様、ITリテラシーの異なりも大きなハードルとなります。

スタッフのITリテラシーの向上は教育によってしかなされません。

そのために、電子カルテメーカーの導入前後サポートや教育についてしっかりと聞いておく必要があります。

とくに導入後の定期的な勉強会は初期サポートとして標準ではないこともあるので、費用をかけてやるのかどうかとういう判断も重要です。

未来の姿をイメージ

電子カルテを導入すると言ってもイメージが湧かないものです。メーカーから説明を受けるだけではなかなかイメージが湧きませんし、メーカー担当者には主観が入ります。

実際に先行している医療機関や展示会を活用し見学することで、スタッフも一緒に自院の未来の姿を思い描くことができます。また、イメージを具現化していくにあたり、はじめの一歩をどうしていくかを具体化にするのに役立ちます。

意識改革

スタッフの意識を電子化や業務効率化という新しいマインドに変化させていかなければなりません。これは導入後では遅いのです。

意識が変われば、電子カルテ以外にも自律的に普段の業務改善への意識を高めていく事につながっていきます。

電子カルテの選定方法

会社選び

有名だとか、近所のクリニックが導入しているかということは一旦忘れてゼロベースで選びましょう。

とくに保守やサポートの体制(メール、電話、24時間356日)の部分はしっかりと確認すべきことです。

機能・性能・使いやすさ

実際に使ってみることが重要です。

とくにカタログでは分からない、見た目と使い勝手の部分(UI:ユーザーインタフェース といいます)は実際に使わないと分かりませんし、使いにくいまま継続していくのは大きなストレスと損失であることを理解しておきましょう。

【当ブログ著者より一言】

例えば機能や性能の一覧表です。営業の方の言葉をそのまま都合よく受け取るのは要注意です。

よくあるのが「検査システムと連携しています」と表記があったときの「連携」という単語です。

何もしなくてもリアルタイムで自動連携する場合もあれば、一日に一回連携するもの、連携のために作業が必要なもの、連携作業でCSVファイルを出力してインポート・・・、というように連携という言葉も様々ですので、オペレーション上で重要な連携であれば、その方法をきちんと確認しましょう。

なお、「API連携」であれば最もスムーズです。また連携に費用がかかる場合もありますので確認しましょう。

オンプレミス型かクラウド型か

これは電子カルテ選定における大きなポイントになります。

サーバー機器自体を院内に設置するのか、インターネット上で繋がったクラウドサーバーを利用するのかの違いです。

本書ではオンプレミス、クラウドのメリットとデメリット、金額について初期費用とランニングコストの面でも触れています。

著者クリニックではオンプレミスを選択したようです。

パッケージ型かカスタム型か

必要な機能や使用が決まっているパッケージ型、自院のオペレーションによって柔軟にカスタムできるカスタム型のメリット、デメリットについて記しています。

費用面

上記のオンプレミス型かクラウド型か、パッケージ型かカスタム型で大きく変わってきます。

例えばオンプレミス型は初期費用が大きくなるという点があります。一方でクラウド型はクラウド利用料が毎月かかるためランニングコストが高くなる傾向にあります。

さらに保守面でのランニングコストや電子カルテの更新費用についても重要なことです。

これら初期費用、ランニングコスト、更新費用、イレギュラーでかかる費用やその具体的な金悪についても具体的に記されています。

電子カルテの費用

(鈴木恵子 超アナログ眼科医院のクリニックDX より引用)

まとめと感想

クリニックの電子化や電子カルテの導入は院長が強行すればうまくいくというのではなく、現場の意見を聞きながら、経営理念や経営計画に沿わせ、きめ細かな教育にも費用をかけることで実行していく必要があります。

当ブログ著者も大小の医療機関のデジタル化、DXプロジェクトに携わってきましたが、プロジェクトの多くは困難を極めました。

本書を読んでいて思ったことは、基本的には小さなクリニックでも大きな病院でも根本的なところは同じように感じます。

しっかりと理念やビジョンに結びつけること、現場に良いイメージを湧かせること、無理のないステップとスケジュールで進行すること、粘り強くスタッフ教育を行うことが電子化プロジェクト成功の法則だと考えます。

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